第12話

鳥取へ引っ越した私達は変わらず温かい生活を送っていた。東京に比べ田舎ではあったが子供を育てやすい環境だと私は感じていた。しばらくは安定して暮らしていたがやはり頭痛や疲労感に悩まされていた。私はネットで検索した心療内科を受診したが、医師は私は社会適合者障害?などと言う診断結果を出し薬が処方されたが服用すると身体にも精神的にも合わずに通院をやめた。そしてある精神科を受診した。初めての女医だった、私は鬱病と診断され薬が処方された。女医は話し易くてこの病院を選んで良かったと思っていた。後に私が鬱病ではないとわかるまでは…。そうして私は薬を服用しながら家事、育児とそれなりに忙しく生活をしていた。そんな頃マー君から連絡が入るようになった、マー君は病気が悪化し、そのせいで友人もいなくなり自殺も何度かしたと言った。多分私は最後の友人になったのかもしれない。彼は毎日のように電話をかけてくるようになった、私はマー君の話を聞いていたが家事、育児で忙しい生活の中でマー君の長電話に少し付き合いきれなくなっていた。着信があっても出なかったり、かけ直す事をしなくなっていた。するとしばらくしてマー君からの連絡はなくなった、この時私はマー君は病気の限界のところにいた事をわかろうともしなかった。私は連絡がなくなって少しホッとしていた、マー君の状況を知らずに…。

マー君は私に助けを求めていたのだ。

後にそれを知った時、私は自分の身勝手さに気づく。私は通院を続けながら日々を過ごしてが病気は良くならず薬が増える一方だった。その頃から死んでしまいたいと思うようになった。家族に恵まれYちゃんも変わらず優しくしてくれ何不自由なく生活させてくれているのに死にたいと思うのだ。そんな気分の中で家事、育児は辛かった。すると余計にその辛さで死にたくなる。Yちゃんは私に寝ていればいいと言ってくれたが、とくに仕事もしていないのに家事もやめて寝ているなんて申し訳なくて出来なかった。そんな中病院で診察した後、点滴をする事になった。薬も勿論出されたが血管に直接安定剤を入れる点滴だ。初めて点滴を受けた後は歩けなかった、ボーっとして半日以上起きる事すら出来なかったが久しぶりに深い睡眠と休養がとれた。

それからは症状が悪い時には毎日点滴に通い、良くなれば止めて、また悪くなれば点滴という治療になった。

しかし薬とはこわいもので、あれ程効いていた点滴も繰り返すたびに慣れてきた、点滴してもふらつきもなくなり多少は気分の落ち込みはましにはなっていたが、それも次第に効果がなくなっていた、というより身体が点滴に慣れてしまったようだった。しかし点滴無しで薬だけでは気分の落ち込み具合が違うので点滴治療を続けた、まるで麻薬のような感じだった。

私は点滴してもなお死にたいと思うようになった。どうして病気は良くならないのか?点滴までしているのになぜ?身体も心も辛かった、時には涙する日もあった。そんな時ふとマー君の事を思い出した、マー君に死にたいとメールした。マー君から返ってきた返事はお前は俺を裏切った…と。はじめは何の事だかさっぱり分からなかった、裏切る?そんな覚えはない…。

もう一度メールしてみた、それにはマー君が苦しかった時、私が見放したその後自殺未遂をしたと。私はマー君との記憶をたどった、あの時だ、毎日マー君から連絡があった頃で私が連絡に出なくなった時だ。そんなに苦しかったとは思いもよらなかった。裏切るつもりなど全くなかったが私はマー君を孤独にさせてしまった。謝るしか出来なかった許して欲しいと。返信はしばらくなかったが、のちにもう二度と裏切らないでくれたら…と許してくれる返信がきた。そして死にたいと思う私へ、いつかその気持ちも落ち着くからと励ましてくれた。私は身勝手で愚かな人間だ、人の傷みにも気づかず自分の傷みだけ主張する、情けないと思った、もうマー君を二度と傷つけないようにしよう、私は自分に誓った。こんな出来事があった中で、マー君は再び電話やメールで私を励ましてくれるようになった、マー君は苦しみ抜いてきたからなのかマー君の話は私の心に響き、病気に関しても私の何倍も経験を経て知識があり色々サポートしてくれた。マー君は以前よりも何倍も深みのある人になっていた。私は許してくれたマー君に心から感謝した。それは今現在も変わらない、マー君の支えが無ければ自殺していたかもしれないと思う。かけがえのない存在だ。私はたまにマー君と電話をしたりしながら通院、点滴、家事、育児をなんとかこなしていた。

そんな頃、私は子供が学校へ通っている昼間の時間に買物をして近所の自販機の喫煙所でタバコを吸っていた。するとそこへ自転車に乗った1人の男性がこちらに向かってきて、たまたま目が合った。そして「肺悪くしますよ、大丈夫ですか?」と声をかけてきた。6月の終わり頃で暑くなってきていたので彼は七分袖の白いシャツに帽子と田舎にしてはオシャレな感じの人だった。七分袖からタトゥーが見えた、私は彼に「タトゥーは本物ですか?」と尋ねたら「はい」と答えた。手首のタトゥーは漢字が一文字彫られていてその一文字は神戸の彼の名前の一文字だった。タトゥーの入った彼と少し雑談した。歳はまだ28歳だと。私より10歳も年下だ。彼がライン交換しましょうと言ってきた。私はなぜか承諾して交換した。結婚してYちゃん以外の男性に声をかけられたのも連絡先交換するのもはじめてだったので少しYちゃんに気が引けたが手首に彫られた彼の名前の一文字と、感じの良い彼に何かを感じたのかもしれない。ライン交換して私は家に帰った、すぐさまラインが入ってきた。なんだかラインは気晴らしになった。それから週に何度かラインした。しかしこれから彼との事で私は人生を変えることになってしまう。

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出逢い @aoyama0330

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