第9話

実家へ帰った私はとくに何をするでもなく日々を過ごした。田舎での友達と毎晩遊んでみたが満たされる事もなく楽しいとも感じなかった。両親は私の病気を知り薬を服用している私を見てどう接すればよいのかわからないようで何も言ってこなかった、私はそれに苛ついていた、何故一緒に悩んでくれないのか?あるいは何故病院へ一緒に行ってくれようとしないのか?実家は居心地が悪かった。薬を飲んでは寝る、そしてまた薬を飲む…。病気が回復どころか悪くなっているように感じた。Yちゃんからは毎日のようにメールが届いていた。それが唯一1日の楽しみだった。そんな窮屈な毎日を過ごしているうちに私は神戸に帰りたくなった。高校を卒業して大阪へ出た時と同じようにこの田舎から出たくなった。ふと、彼が浮かんできた、仕事はうまくいっているのだろうか?元気にしてるのだろうか?そしてもう他に誰か好きな人と付き合ってるのだろうか?結婚してる?…。私は彼の声が聞きたくなった、もし神戸に帰るならなんて言うだろうか?Yちゃんとの関係もいったん距離を置くことになったし電話してもいいのでは?と思った。

そして私は彼に緊張しながら電話をかけてみた。彼は電話に出てくれた。久しぶりに聞く彼の声だった。愛おしさがこみ上げてくる。私は今実家に居て神戸に帰りたいと素直に言ってみた。すると彼は優しく「帰っておいで」と言った。知り合いの不動産の人にマンションを探してもらってあげるからと言ってくれた。嬉しかった、とても…。しかし彼女はいるのか?私の事はどうなったのかは聞けなかった、勇気がなかったフラれる事が怖かったからだ。両親に話しお金を少しもらって神戸へ帰る事にした、彼の紹介してくれたマンションへ。Yちゃんもそれについては反対しなかったと思う。ただ彼の存在をYちゃんは知らない。仕事は初めて入っていた店にパートで働かせてもらう事になった。鬱病になり正社員で働く元気がなかったからだ。準備は整い神戸へ引っ越した。彼はワンルームの部屋を不動産に頼んで探してくれていた。神戸はやはり私の肌に合っていて帰ってきて安堵した。私は彼にお礼の電話をした。だがしかし彼は会いに来てくれなかった。忙しいからと、後は彼は夜の仕事で私は日中の仕事だからまたもや時間が合わなかった。私の病気は甘くはなく、その日の気分、体調で休む日もあった。昔は無欠勤無遅刻していた私が…。情けなかったが病気には勝てなかった。そこへ心配してくれたのはやはりYちゃんだった。Yちゃんは忙しい中でも私の病気がひどいといつも徳島からバスで会いに来てくれた。優しい人だ、本当に…。それから私は仕事休みの前日はバスに乗ってYちゃんへ会いに行くようになった。彼の方は同じ神戸にいるのに会う事はなかった。もう私は彼女ではないのだろう、過去の人になっているのだろうと思わざるをえなかった。どうせならはっきり言われた方が楽だったかもしれない。しかしそれを聞く勇気がない私も私だ…。

そんな中Yちゃんと付き合いが続いていた頃Yちゃんが千葉県へ転勤となった。私は寂しくなると思っていたらYちゃんが結婚して一緒に千葉へ行こうと言ってきた。私は仕事も休みがちで周りの後輩、同僚も結婚して子供を産んでいたので少し焦りもあった、同時に毎日が病気で本当に辛かった、Yちゃんといれば私は楽になれる、そして幸せになれると思った。そう、会えない彼を待つばかりの日々は辛かった。

私はYちゃんのプロポーズを受ける事にする前に、彼にそれを話してみたかった。止めてくれたなら私はプロポーズを受けなかったと思う。だが私は聞けなかった。あっさり良かったね、なんて言われるのが怖かったからだ。そしてこの言えなかった事を私は一生後悔する、今もずっと…。

結局私は彼に何も告げずYちゃんと入籍した。私はYちゃんに一生かけて恩返しをすると誓った。数々の出来事で私を助け続けてくれたからだ。愛情と言うより感謝の気持ちの方が大きかったかもしれない。まるで捨てられた猫を拾って育ててくれたような気持ちだった。どこかで彼を思っていたがその内忘れる事が出来るだろうと。

そして私はYちゃんと千葉へ行った。

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