第3話
震災のライフラインも復旧し街も少しずつ元の姿に戻りかけた頃、私は21歳になっていた。仕事も美容師免許も取得し、店での立場もそれなりに重要なポストになっていた。
ある日、私は店の同僚と休日街へ出かけてぶらぶらとしていた。まだその頃は彼と別れた孤独感、裏切られたような失望感、どこかで別れられた事の安堵感など複雑な気持ちで日々過ごしていた。
同僚とどこに行くでもなく街を歩いていると2人の男性が「カラオケ行かない?」と声をかけてきた。いわゆるナンパだ。とくに用事もなかった私達は承諾してカラオケに行く事にした。
その内の1人が私より1つ年下のマサキ君、通称マー君。
この出逢いがこれからの私の人生でとても大切な永遠の友、また恩人となるとはこの時は気づかなかった。マー君といたもう1人は誰だったか名前すら今は覚えていない。出逢いとは不思議なもので縁がなければ記憶から消えていく…。マー君とは連絡交換したがもう1人とは連絡交換したかすら覚えていない。
マー君との出逢いから少し経ち私は就職してからコツコツ貯めた貯金で1人暮らしを始める為マンションを借りる事にした。それをマー君に話したところマー君の仕事先の近くに借りたら?と言ってくれた。何かの時に不安にならなくてすむようにと。私はその意見を有り難く受け取ってマー君の仕事先近くに住まいを借りた。彼は寿司職人で親の経営する寿司屋で働いていた。
あまり預金に余裕がなかった私にマー君は引越しまでしてくれた。ほんとに良い出逢いで良い人だった。引越しして私は何とも言えない解放感、自由になれた気がしていた。この時やっと親からも、会社からも独立出来たような気持ちになった。
引越して1週間も経たない頃、仕事終わりにマー君がお寿司を持って様子を見にマンションへ来た。色んな雑談をして夜も遅くなった頃、私は慣れない1人暮らしに少し寂しさも感じたせいか一晩泊まって欲しいと言った。相手が男性なのに…。軽率な女だと思うかもしれないがその時は何も深く考えてなどいなかった。マー君はいいよと快諾してくれた。眠る時間になり布団が一式しかなかったので一緒に寝ようと言ったがマー君は床で寝ると言った。
それでは床は痛いしもう一度一緒に…と言って同じ布団で寝る事にした、彼はほんとに明るくて歳の割にはしっかりしていて好感があった為、もし体の関係になってもいいかもとその時私は思っていた。でも彼は私に触れる事はなかった。たまに彼の指先が私に触れようとすることがあってもそれ以上は何もしてこなかった。この時2人が関係を持ってしまっていたなら私とマー君は現在まで続く仲ではいれなかったかもしれない。マー君は素晴らしい紳士だ。私はマー君と出逢えた事に一生感謝している。この先マー君は私を支え時には叱ってくれ、喧嘩もして、励ましてくれる。恋人にはならなかったが、ならなかったが故の関係になれた。友達以上恋人未満の大切な存在となっている、現在進行形で…。この出逢いが1つ目の奇跡の出逢いだ。
しばらくしてマー君から一本の電話がかかってきた「俺結婚するからその彼女の為にも女友達との連絡はやめるから、さくらごめんけどもう連絡できへん」との内容だった。私は寂しくなるがマー君の幸せならと快諾し、結婚祝いの食器を買いマー君へ届けた。
それから約2年程連絡のない空白ができた、ただその2年程の間にマー君が精神病になり壮絶な人生を送っていたとは知るよしもなく…。そして後に私もまた同じ病になるとも想像すらしなかった…。
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