第20話 君がいた記憶

 僕が高校生だった頃、四十人がいる教室の中に君がいた。

 クラスの窓際の席。そこに君の席がある。

 僕はぼんやりと君の後ろ姿を眺めていた。

 先生の授業を聞きながら、時折君のことを見ていた。

 そうしたら君が手を挙げた。寡黙な君にしては珍しいことだ。

「先生。もう一度教えてください」

 クラスの人が皆君のことを見ていた。先生もクラスメイトも不思議そうな顔をしている。

「わからなかったか。電子の軌道について説明していたんだ」

「私、わからなくて」

「じゃあもう一回説明するぞ」

 先生はもう一度君に説明していた。

 授業が終わると君は僕の席に来た。

「あのさ。高井くん。この問題わからなくて」

「あー。ここはこうやって解くんだよ」

「ごめんね」

「別にあやまらなくてもいいよ」

「私、ついていけないのよ。急にわからなくなって」

 君はおどけて笑った。僕は君の笑顔を今でも覚えている。

「大丈夫だよ。ゆっくり解けばいいんだ」

 君は休み時間いつも僕の前の席に座り時間をつぶしている。僕はそんな風に君と過ごしていることが楽しかった。

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