第17話 消えた姉
僕は何をするでもなく、ただ一人教室の窓から外の景色を眺めていた。疲れているせいか全てがくだらなく思えた。学校の部活も勉強も。
音楽。これだけはやめられない。ピアノの音を聞いていることは快感だ。
「何やってんのよ?」
中学の時の同級生の香織が夕暮れの教室に入ってきて僕に声をかける。
「別に」
「あんた、高校に入ってから変よ。成績も悪いみたいだし、部活はやめちゃうし。中学の頃、あなた学年一勉強ができて、バスケ部のエースだったじゃない。そもそもなんでこんな普通な高校に来たのよ」
「家に近いから」
僕は言った。
香織は僕の前の席にやってきた。
「ねえ、何があったのか話してみなさいよ」
「何もないよ」
「嘘よ。聞いちゃ駄目かもしれないけど、お姉さんのことでしょ?」
「あー」
僕はけだるく返事をした。僕の姉は自殺した。憧れの姉だった。美人で勉強もスポーツもできた。僕は物心がつき始めたころ、姉になろうとした。僕は生まれつき平凡だったので、人一倍考え努力したのだ。いざ、姉が僕を認めてくれる手筈が整ったら、姉は嘘みたいに簡単に首を吊って死んだ。
姉が死ぬ前、僕は勉強する姉の部屋の中で話した。姉は勉強するとはひっそりと部屋の中でノートに文字を書き込む。教科書を全部ノートに書きこむような無茶な勉強をしていた。
「ねえ、圭介。あなたにはわからないでしょう。私は権威を渇望しているのよ」
「権威?」
「そう権威」
僕にはなぜ姉がそんな思いをしているのかわからなくなった。
「駄目ね。疲れちゃった」
姉はそう言って、しばらく無言になった。
さっきまで優しかった姉が嘘みたいに怖くなった。目が虚ろで、その目は何も見ていない。
「いったいどうしたんだよ?」と僕は聞いた。
「私はここではないどこかへ行きたいのよ。いつもそうなの」
「権威を手にしたらそこへ行けるってこと?」
「きっと無理ね。私はただ安心したいのよ」
僕は部屋を出た。
その日、夜姉は死んだ。
「ねえ、香織、何で姉は死んだんだ?」
「わからないわよ」
「もう、嫌なんだよ。どうして僕の姉が死ななくちゃいけないんだ」
その日の帰り、僕は家まで帰った。香織は僕に無邪気に手を振った。僕は泣きはらした目を隠しながら家の扉を開けた。
家に帰ると母親がいる。僕は姉が死んでから、家族の誰とも話をしていない。話したら姉のことを思い出してしまう。
父親が帰ってくると母親と父親は静かに話をしているのが、聞こえた。
僕は香織に電話をかけた。香織は友達の悪口をバケツ三杯分くらいぶちまけた。それで僕の気持ちは少しまぎれた。
香織。なんでお前は傷ついている僕にそんな話をするんだよ。
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