第16話 数奇な人生

 少年の名前は雄介。部屋で眠りにつこうとしていたのだが、彼は激しい孤独感に苛まれていた。両親はいたが、彼が欲しかったのは友達だった。今を生きているのが精いっぱいで、人見知りの彼には高校に入ってから友達というものがいなかった。彼は自分と言う存在が不完全でありすぎると自分の境遇に不平を抱いていた。

 夏休みの夜、彼は電気コードで首を吊ろうと思い立つ。劣等感と憂鬱と孤独からだ。

 夜の闇の中で、彼は電気コードを首に巻く。どうやったら死ぬのだろうか。

「待ちなさい!」

 部屋の中心には美女が現れた。

「あなたは誰?」

「未来のあなたの恋人よ。いますぐロープを放しなさい」

 彼は言われたとおり、ロープを外した。

「雄君」

 美女は彼の目を見つめていた。少年は胸に暖かさを感じた。

「あなたはいったい?」

「そんなことはどうでもいいわ。生きるのよ。十年耐えなさい。私があなたに会いにいくから。それまで私を忘れないで」

 美女はそう言ってくるっと周り、姿を消した。


 少年は十年耐えた。その中で少年は人見知りを克服し、勉学に励み、安定のある仕事に就くことができたのだが、その十年とは激しく彼を混乱させるものだった。彼は混乱と疲弊の人生の中で美女の面影を鮮明に思い出した。

 十年後、新入社員としてやってきたのはあの時の美女だった。彼はあの時のことを鮮明に思い出した。

「はじめまして。今日からお世話になります。よろしくお願いします」と彼女は言った。

「君は……」

「私たちどこかで会いましたっけ?」

「いや、なんでもない。あなたの名前は?」

「早見優香です」

「田辺雄介だ。よろしく」

 彼は彼女に仕事を教えた。

 それから二人で食事をすることも増え、二人は恋人同士になった。


 彼女はある日、仕事を辞めた。

 彼女はがんになり、余命は半年だった。

 彼女は死のうとしていた。彼はあの時のことを思い出す。あの美女は死んだ彼女だったのだろうか。

「ねえ」

 病室で彼は問いかける。

「何?」

「君が死んだらさ、また僕と出会うかもしれない」

「どういうこと?」

「いずれ、わかるさ。その時に生きろといってほしいんだ」

「ねえ、今そんなことを言っている場合? 私は死ぬ寸前なのよ?」

「そうだね。僕は数奇な人生を歩んだんだ。普通の人間が体験しないようなね。それでいつでも君のことを思い出していた」

「そうなの?」と彼女は言った。

「そう」

 

 彼女が死んでから一か月が経った。彼は仕事に励み、夜を一人で過ごした。

 奇妙だな。人生と言うものは。何たって全てが予想を外れていくのだから。



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