第13話 異世界へ

 僕は憂鬱な気分で授業を受けていた。クラスで人気のクラスメイト達は楽しそうに休み時間にはしゃぎ、友達のいない僕は彼らの声に苛まれていた。

 昼休み、僕はトイレで過ごした。誰もいない、普段は実験室として使われている棟で人は来なかった。

 僕は持ち込み禁止の音楽再生機器でロックを聞いた。体から力が抜けていく。一瞬何かから解放されたような気がした。

 ロックの音楽は僕を別の世界に連れていってくれる。僕はロックへの果てない憧れを抱いた。

 昼休みのチャイムで僕は教室に戻った。クラスの喧騒が耳障りだ。僕はただじっと机に座り、文庫本を開いて読書をしているふりをしていた。

 帰りのホームルーム。僕は帰るのが待ち遠しかった。僕は急いで鞄にノートを仕舞い教室を抜け出した。

 階段を下りていく。やっとこの場所から解放される。下駄箱で誰よりも先に靴を履き替えて、僕は学校を後にした。

 帰り道、小走りで夏の太陽が輝く道路の上を駆けていく。クラスメイトはまだ来ていない。僕は公園を通りすぎようと芝生の中を走っていた。

 ふいに辺りが暗さを増す。いったい何かと思ったころには、頭上に真っ黒の蝶が舞っていた。背後を振り返ると黒い蝶の大群だった。

 僕は意識を失った。




 目を覚ますとそこは木の小屋だった。僕は朦朧とした意識が徐々に回復してくるのを感じた。

 木の小屋のベッドの中で僕は眠っていたのだ。

「あら目覚めたの?」

 僕と同い年くらいの白い髪の少女が僕に聞いた。

「いったいここはどこなんですか?」

「どこって言われても。ここはA地区よ」

「A地区って?」

「A地区はA地区よ。あなた何かコーヒーでも飲む?」

「はい」

 少女は僕にコーヒーを淹れてくれた。マグカップを僕のベッドまで持ってきてくれた。

「あなた、腕に魔法使いの印があるわね」

「魔法使い?」

 僕は左腕をまくると、タトゥ―のような炎のマークが左腕全体に入っていた。

「これはいったい?」

「あなたはきっと吸血鬼に襲われてここまでたどり着いたんでしょう」

「吸血鬼?」

 僕は知らないことばかりで、彼女に様々なことを質問した。この世界はAからK地区まで別れていて、魔法使いと人間と吸血鬼が混在して住んでいる。吸血鬼は単独で行動し、魔法使いや人間を殺して血を吸う。この世界では人間が実権を握り、魔法使いが兵士として人間から吸血鬼を守っている。近頃、グリンドアという凶悪な吸血鬼が組織を作っていて、魔法軍は彼らと抗争状態にある。

「こんなところでいいかしら?」

 彼女はエルザという名前だった。

「ところで君の家族は?」

「私の家族は吸血鬼に殺されたのよ」

 エルザはそう言って涙を流した。


 次の日、僕は魔法軍の施設まで行った。鉄でできた門は腕の紋章をみせるとくぐることができた。

 僕は門兵に様々な事情を話した。

「僕には記憶がないんです」

「とりあえず君の出生を確認しないといけない」

 僕は施設の中に入り、そこで将校と話をした。

「腕の紋章から、君が魔法使いだということはわかった。出生が判断するまで君はうちで預かることにしよう。君は見かけから十八歳以下みたいだし、うちの訓練兵となってもらう」

「わかりました」と僕は言った。


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