第11話 通り雨

 俊太は雨が降る公園でずぶぬれだった。理由は雨が降ってきてそれが俊太に当たったからだ。好きだった子に振られたということで、落ち込み、座っているベンチから動こうとしなかった。俊太は雨に濡れていることに振られたショックを投影した。

 公園の周りを歩く人は彼を一瞥して、おそらく不思議そうに思ったことだろう。彼らはすぐに去っていった。

 俊太の服はびしょびしょになった。泣いたせいで涙と雨の区別がつかなかった。暗くなる前にベンチから立った。

 公園から出ようとしたとき、振られた女の玲香と出くわした。

「どうしたの?」

 玲香は言った。

「なんでもない」

「ずぶ濡れじゃない」

「だからなんでもないって」

「うち、この近くだから寄って来なさい」

 玲香は俊太の腕を引っ張った。

「嫌だ。さっき僕を振ったくせに」

「あのねえ、あんた、私に彼氏がいるっていったじゃない。私に浮気にしろっての?」

 俊太は玲香に腕をつかまれ、アパートまで連れていかれた。

 小さなアパートに玲奈は住んでいた。木造のアパートで隣の部屋から物音が時折聞こえた。

 玲奈はバスタオルを持ってきて僕に渡した。

「わざわざこんなことしなくてもいいのに」

「あなた私に振られてショックだったんでしょう? ならほっとけないわ」

「ありがとう」

 俊太はバスタオルで髪をぐしゃぐしゃになるまで拭いた。悔しくて涙が流れてきた。目の前の玲香はきょとんとした目で俊太を見ていた。

「ああ、僕は無様だよ。雨に濡れてかっこつけていたのに」


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