第9話 青空の理由

 夏に青空がなかったらその光景はひどく寂しいに違いない。君の髪の毛は風に揺れてまた元の位置に戻る。君には婚約者がいて、その人を大事にしていることは知っていた。だから僕は君の友達だ。

「ねえ、青空ってなんで青いと思う?」と僕は聞いた。

「さぁ? 空が青いのは光の反射がどうのこうのって」

「僕は思うんだ。人間が心地よく住めるように、この世界は作られたんだって。まぁ、未だに世界は貧困や戦争であふれているけれどね」

「あなたはいつも変なことを考えるのね」

 君は暑い日の光を浴びて、ハンカチで汗を拭いた。

 僕は君が相変わらず好きだったが、言葉に出すことはなかった。平凡な顔、これといって、優れたところないけど、僕は君が好きだ。

 車で夜、海岸線から去っていく。体にはまだ海の匂いが残っていた。

「私、今度結婚するのよ」

「幸せに。君は僕の大切な友達だ」

「ええ、あなたがそう言ってくれて嬉しい」

 帰り道、彼女は手を振った。

 君はそれから結婚して、子供を産んだ。僕は部屋で一人ウイスキーを飲んでいた。

 ある日、僕は女を連れて街を歩いていると遠くに君の家族がいるのが見えた。僕は何となく居心地が悪くて目をそらしていた。

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