第4話 雨の音 短編

 長い雨が降っていた日、僕は部屋でテレビゲームに夢中になっていた。少年時代に遊んだテレビゲームを大学生になった今もこうして部屋の中で行っている。窓の外の雨の落ちる音がしていて、喧騒なテレビゲームの背後にBGMのように加わった。

 その日の夜、姉が外から帰ってきた。年は二歳違いで、僕と同じ大学生だが、大学を休学していた。

「おかえり」

 母親の明るい声がリビングから聞こえた。姉は小さな声で母親と何かを深刻そうに話し合っていた。

「お姉ちゃんおかえり」と姉が部屋を上がってくる足音を聞いて、ドア越しに僕は声をかけた。

 姉は無言で部屋の中に入り、ドアが開いて、閉じる音だけがした。

 その日夕食を食べた僕は姉の姿を見た。姉はソファにもたれながら興味のなさそうなTVのバラエティ番組を眺めていた。

「お姉ちゃん。体調は大丈夫?」

 僕は気まずい沈黙を破るように口にした。

「大丈夫」

 姉の乾いた声がした。

 僕はその日、不安にかられた。疲れた姉が、いったいどんな理由で休学しているのか知らないが、自殺してしまうのではないかという気がしたからだ。

 ベッドから抜け出た僕は姉の部屋をノックした。

「ねえ、入ってもいい?」

 数秒の沈黙。

「いいよ」

 姉の声がした。

 部屋のドアを開けた。姉は暗い部屋のベッドの手すりによりかかり、うなだれていた。

「大丈夫? ここのところ体調が悪いみたいだね」

 電気をつけると姉は手すりにうずくまりながら泣いていた。初めてみた涙だ。

 僕は姉の体をさすった。体は熱を帯びていた。

 その日、深夜に姉はベッドに入り眠りに落ちた。僕は姉の部屋から出て、自分のベッドに戻った。


 四月、街には桜の花が咲き誇っていた。この辺りは観光地にもなっていて、観光客の姿を見ることもあった。あれから体調を取り戻した姉は大学に復学した。僕は就職活動をしていた。部屋を出る前僕は姉とすれ違った。

「今日から大学に行くわ。あんたにはずいぶん心配かけたみたいね」

 姉は昔と同じように笑っていた。

「大丈夫そうならよかった。お姉ちゃんは僕の大事な家族だから」

 僕はそう言ってスーツを着て家を後にした。

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