『押しかけ女房ならぬ、押しかけファンだね』と誰かが言った(池波正太郎のお墓参りまで)

 柴田錬三郎が眠る伝通院を出てJR春日駅に向かう。

 スマフォの乗り換えアプリ(便利な時代だ)を駆使して今度は池波正太郎の眠る西光寺という寺を目指す。

 一度乗り換えをするのだが、とにかく、西光寺に行くまで胸がどきどきした。

 

 まず、「××時に私は○○を作った」シリーズ【通称「作ったシリーズ」】で何度かお世話になっているのだが、その再現率は低い。

 申し訳ないのが一つ。

 もう一つ。

 これは池波正太郎本人とは直接関係はない。

 お墓に行くまでのルートが問題なのだ。

 事情が分からない人のために(というか、これを読んでいる人ほとんどがそうだろうけど)解説。

 田舎のお寺は直接お墓参りが出来る。

 だが、東京は一度お寺(一見、普通の家)を通ってお墓に行く。

 つまり、一回、インターフォンを押す。

 これが私的にはかなりの重圧プレッシャーなのだ。

 この旅(なのかな?)を始めた頃。

 私が短大生だった頃に初めて行ったとき、お寺の人に「ご関係は?」と言われたとき脳が混乱し「えーと、いとこのはとこの嫁の娘の友達の……」と言ったことを覚えている。

 きっと、お寺の人も察してくれたのだろう。

 私が押しかけ女房ならぬ、押しかけファンだということに。


 そして、今年も西光寺のインターフォンを押す。

 この瞬間が、一番緊張する。

――もう、自棄だ‼

 半ばそんな気持ちになる。

『はい?』

「あのぉお……池波正太郎先生のお墓参りに来たものですが……」

『どうぞ』

 玄関の扉を開けて中に入る。

 中は通路になっていて通路に添って歩く。

 墓場の入り口で一人の男性が待っていた。

「お線香ください」

 私が言う。

「はい、○○○円ね」

 線香に火をつけてもらい、入り口を開けてもらう。

 柴田錬三郎の時のように一度だけ深呼吸をする。

 墓前を確認し(今では笑い話にできるが一度お墓を間違える大失態を犯している)煙草を供え合掌し瞑目。


 私は今年からお供え物を煙草に変えた。

 前回までは朝早くから料理をしてタッパーに入れて持参していた。

 しかし「作ったシリーズ」を通して自分の料理技能のなさを自覚し、同時期に池波正太郎もヘビースモーカーで煙草を喫煙していたことを知った。

 というか、銘柄が分からなかったのだが、ある本に買い求めた煙草のことが書かれていたのだ。

 煙草を吸わない私からすれば煙草の種類なんてわからないから、これは大きな収穫だった。

 そして、何より楽。

 コンビニですぐに買えた。

 私も歳を取ったなぁ……

 

 手を合わせながら色々話した。

 映画の話、「作ったシリーズ」のこと、就職できたこと等々。

 手を解き、一礼して寺から出た。


 やっぱり、緊張した。

 これで今年の旅の大きな目的の一つは完了した。


 次回予告。(来週になりますが)

 都庁に行ってからカプセルホテルに泊まるまでの話になると思います。

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