愛され上手の目 池波正太郎編

 池波正太郎は、死後四半世紀が過ぎているが今でも愛されている作家である。

 時代劇小説家として、エッセーリストとして、映画好きとして彼は多くの作品をこの世界に残した。

 実際、書店に行けば沢山の氏の書籍がある。


 出会いは、高校時代。

 私が柴田錬三郎作品にハマっていることを知った友人の母親が、その友人を介して「だったら、池波作品もハマるわよ」と言ったのがきっかけ。

 私はほぼ日課となっていた書店に向かい『つまらなかったら戻そう』と思っていた。

 書店に入って一時間後。

 私の鞄には『剣客商売』が入っていた。

 初めての感想は、「読みやす‼」

 あと、食べ物描写でお腹が本当に空いた。

(そして、「なんでも私の好きなものに置き換える」という私の悪癖が発動する)


 お墓参りにも行っている。

 前回の柴田錬三郎の墓が個性的だったのに対し、池波正太郎の墓は実にシンプルだ。

 はっきり言えば普通。

『池波』という文字がなかったら他の墓と見分け出来ない。

 

 池波作品は多くの人に読まれ、多くの人が感想を書いている。

 中には「自分は嫌い」という人もいるけど多くの人は好意的だ。

 読み継がれているのは色々理由がある。

 曰く「読みやすいが人生や世間の深淵を書いているから」とか。

 その意見には大いに賛同する。

 でも、それだけだろうか?


 柴田錬三郎のところで私は『真面目過ぎて愛され下手』と書いたが、池波正太郎は(私見ですけど)『真面目だけど愛され上手』だと思う。


 私が読んでいた『剣客商売』の主人公は秋山小兵衛という、お爺ちゃんだ。

 このお爺ちゃんを思い出すたびに思う。

「愛され上手な爺さんだなぁ」

 では、それに頼っているだけの老人かと言えば違う。

 むしろ、その心の奥底の目は恐ろしく冷静なのだと思う。

 人の心を知り尽くしているといっていい。

 道化の仮面はつける。

 しかし、その眼は決して笑ってない。

 

 これは作者である池波正太郎にも言える。


 だから、ちょっと怖い。

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