『無頼』が繋げた十年 柴田錬三郎編

 私が時代劇に、柴田錬三郎作品にハマったのはドラマからだ。

『御家人斬九郎』

 今や世界の「ケン・ワタナベ」こと渡辺謙主演の時代劇だ。

 ハマったことを知った母が言った。

「お前、そんなに好きなら原作を読みなさいよ」


 私は高校の帰りに本屋により『御家人斬九郎』を買い求め、駅のプラットホームのベンチで読み始めた。

 正直に書く。

 最初は難しかった。

 私は、それまで速読が得意だったが原作を読むのに手間取った。

 実は、『御家人斬九郎』は晩年の作品で柴田作品では、かなり読みやすい部類に入るのだが、それでも漢文を読んでいる気分だった。

 だが、読み進めていくうちに以前から培ってきた「時代物で分からないものは何でも現代に置き換える」を駆使して読むと背筋がぞくっとした。

 面白い。

 カッコいい。

 私は友人が来るまで夢中で読んだ。


 それから、私は短大に入学した。

 その頃から思っていたことがある。

「こんな面白い話を書ける人に会ってみたい」

 まあ、他にも諸事情あるのだが今は封印しておこう。

 チャンスは重なる。

 短大のレクリエーションで東京に行くことになった。

 同時期、「作家の墓を訪ねよう」(岩井寛 著)を図書館で見つけた。


 今でも日にちを覚えている。

 七月一日。

 雨が降っていた。

 当時、何をどうしていいか分からず、ワンカップ大関を備えた。

(後に私と同じ下戸だと知って「あー、やっちゃったなぁ」と反省)

 とにかく、個性的な墓だった。

 ピラミッドみたいな墓石に横に球体の石がある。

 思わず柏手を打った。


 今考えると非常識であり、以後二十年以上続く墓参りの原点だった。


 さて、短大を出た私にインターネットの世界が待っていた。

 そこで柴田錬三郎作品を扱うサイトに出会い、十年以上私が妄想していたことなどを書き続けた。


 この十年以上に色々なことがあった。

 リストラ、一人暮らし、発達障害認定……

 その間、ファンサイトの人たちが支えてくれた。


 柴田錬三郎作品の主人公は孤独だ。

 突然変異種、と言ってもいい。

 容姿、生い立ち、境遇、思想……

 そして、往々にして強くて優しい。

 ただ、その優しさは孤独と表裏一体だ。

――自分がいるから相手を傷つける

――だから、自分から去る

 

 私からすると、『真面目過ぎるほど真面目で愛され下手』なのだと思う。

 だから、問われているのだ。

「お前(自分)は自分とちゃんと向かい合っているのか?」


 最近鬼籍に入った俳優は言っていた。

「二十代、三十代は気が狂うほど悩め。そうすると、道は見つかる」

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