第11話 初恋の少女が婚約するらしくて心中が穏やかじゃない
初めは戸惑いしかなかった護衛騎士の任務だが、それも半年もこなせばかなり慣れてきていた。
我が儘ばかりだったホムラもまた、フェイに対する態度を軟化させていて、良好な関係を築きつつある。
だが、そんな中で、ホムラが婚約することになった。
その事をフェイが知ったのはある日の早朝の事だった。
グウェン帝国の王子とメウィス国の巫女の結婚。
表には出ていない情報だが、極秘裏には国のかじ取りをこなす賢人達の手によって、色々とお膳立てされ、かなり先の方まで計画が進められているようだった。
話を聞くなりさっそく部屋へ向かったフェイ。
「むにゃ……、閉じ込められるのは嫌よ。ちゃんと仕事するから。力使うから……。ホムラ、助けて……」
見張りを強引に言いくるめて私室の扉を開けた彼は、寝ぼけるホムラを起こして婚約の事について問いかけた。
「ホムラ様はそれで良いんですか」
「何、フェイ? 朝からうるさいわね。不敬よ」
身分を考えれば、護衛騎士が自分の要望を押し通す事などできるはずがなかったのだが、突然部屋へやってきたフェイをホムラは拒絶しなかった。
疑問をぶつけらられたホムラは、平然とした顔でその問いに答えた。
その表情に同様の様なものや、躊躇いの様なものは存在しない。
「それが両国の希望になるのなら、喜んでやるべきでしょう? 私、何かおかしい事言ったかしら」
「ですけど、ホムラ様のお気持ちは……」
「私の気持ちなんて関係ないわ。多くの人の利益になる事をする。それが浄化巫女の役目じゃない。リシアも分かってくれたわよ」
そんなホムラのまっとうな意見に、反論できなかったフェイは、大人しくその話を飲み込むしかなかった。
仕えるべきである主がそう答えを出したのなら、護衛騎士はその意を組んで助けになる様に動かなければならない。それが普通のことだったからだ。
いくら内心で拒絶しようとも、事実や関係は代えられない。
しかしそんな事情が変わったのはその日の夜だった。
密室でのやりとり。
そこでのグウェン帝国の王子と従者の会話の内容を、落とし物を届けようとしたリシアが精霊の力を使って壁ぬけし、盗み聞いてしまったらしい。
ホムラはその話をすぐにフェイへと伝えた。
「帝国の人達はホムラ様を利用するつもりらしいんだ。精霊兵器を作るのに、この国との協力関係が邪魔だって。どうしようどうしよう。前みたいにホムラ様が大変な事になっちゃう」
「何だって」
一連の出来事を聞いたフェイは、すぐさま自らの主へその内容を伝える。
二度目の抗議かと思い部屋で不満げに出迎えたホムラは、フェイたちの説明に顔を青くさせる。
最近のトラブルは、ホムラを亡き者にしようとする彼等のせいでもあった。
グウェン帝国にいる戦争推進派は、メウィスとの和平を解消して戦争をする気らしい。
そして、和平を終わらせて再び精霊を道具として使うつもりらしかった。
「それは本当なの?」
疑いの眼差しを向けるホムラに、フェイとリシアが二人がかりで説明すれば、彼女は信じざるを得なくなった。
「恋愛する事なんてどうでもいいと思ってるわ、今もね。巫女として人々の希望になれればそれでいいと思っている……。けれど、そんな思いをこうも踏みにじった上で、この私を利用しようとするなんて絶対に許せないわ。やり返すわよ、帝国の愚かな者達に。二人とも、協力してちょうだい」
フェイ達に、その話を断る意思があるはずなかった。
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