第10話 初恋の少女の苦労を知った



 祭りの外側から雰囲気を楽しむだけの集まり。

 そんな時間の中、ホムラは遠くで騒ぐ人々の声を聴きながら呟いた。


「私達の役目は、彼等の笑顔を守る事だわ。正直顔も見た事も会った事もない人間の為に働くのは、いつもどうなのかと思ってるけど……、こういうものがあるのなら頑張ってきて良かったわ」


 日ごろのわがまま放題のホムラの態度としては、その言葉の前半の気持ち至極当然のようにも聞こえたが、その反面に後半の内容には、意外さが感じられた。


 だから、フェイはその疑問を遠回しに口にだしていた。


「ホムラ様は、何の為に巫女様の仕事をこなしているのですか?」

「私が大切だと思う人の世界を守る為よ。ホムラや、今まで世話をしてくれた人達の為。それがどうかしたのかしら」

「いえ、広いようで狭いなと」

「誰の心が狭いですって?」

「そんな事言ってませんよ」

「言ってるようなものじゃない」


 うっかり失言してしまったフェイは、慌てて別の話題へと話を変える。


「えっと、でもたったそれだけの為にこれだけ大変な事を成せるのは凄いと思います。尊敬します」

「つまり、それだけの事で頑張れるのが不思議でたまらないと、貴方はそう言いたいのね」

「う……」


 結局話題が戻ってしまった事に、フェイはうなだれるしかない。

 けれどホムラは答える気になった様だった。


「小さい理由よね。でも、それだけで十分じゃない。私にとって、世界はそう広いものじゃない。浄化巫女になってからは、あまり外に出なかったもの」

「すみません」


 巫女の修行の苛酷さを感じさせられる言葉を聞いてフェイは、配慮が足りなかったと頭を下げる。

 過労などで時々こっそり居眠りすることのあるホムラは、寝言で言うのだ。

 働きたくない、とか。自由に生きたいとか。

 彼女にとっては巫女の役目はひどく苦痛のものなのだろう。


 そんなフェイをみて、ホムラは憤慨したように鼻をならす。


「なぜ謝るのかしら。辛いけど、別に私は自分の事は不幸だとは思ってはいないわ。人それぞれ境遇が違うのは当然の事でしょう」


 ホムラが向ける愛情はごく一部に限られている。

 だが、もともと関係する人間が少なかったホムラにとってはそれ故に、その人物が最大限幸せに生きられる事が、彼女にとっての幸福になりえるらしかった。


 その為ならば、世界すら守って見せると。

 フェイはその瞬間ホムラの強さがどこにあるのか理解したような気がした。


「でも、だとしたら、ホムラ様自身はそれで幸せなんですか?」

「何を言ってるのかしら、親しい友達が幸せなら、私も幸せになるでしょう?」


 その後は当たり障りのない会話をして、騒がしさとは無縁の遠くの距離から祭りを楽しんだ。


 フェイにはその距離感が、ほんの少しだけ残酷なように思えた。


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