第9話 初恋の少女の言葉にちょっとショックを受けた



 フェイがホムラの護衛騎士となっておよそ一か月が経った頃。

 メウィスの国では祭りが行わる時期となった。


 精霊との共存を目指すこの国では、その目的を果たす為に精霊の好む花……ハニーメリーを多く栽培している。


 甘い匂いがする事が特徴であるハニーメリーは一般に広く普及しており、薬にもなり、食料にもなり、多くの目的に用いられる。とても身近なものだった。


 祭りではその花を粉末上にして、町中にまく。

 その時期に、ハレルから東にある幻想の里から、風にのってやって来る微精霊を楽しませる為だった。


 大昔からやっている伝統であり、こればかりは隣国グウェン帝国の和平があろうとも、なくせるものでは無かった。


 精霊は、ハニーメリーの粉末を取り込んでエネルギーを蓄える。

 その際に淡く光を発するので、夜などは幻想的な景色が見られ、その景色が祭りの中の一番の売りだった。


 その年も多くの精霊達が風に乗って、ハレルの国へとやってきていた。


「いつ見ても、綺麗なものね」


 巫女の居室から夜景を眺めていたホムラは、そう呟く。

 部屋に招かれていたフェイやホムラは、祭りの賑わいと人々の声を遠くに聞きながら、昼間に屋台で買い込んできた食べ物やら品物を広げて、小さなパーティーを楽しんでいた。


 身分故に外に出られないホムラだが、祭りの空気を感じるその姿は楽しそうなものだった。


「ホムラ様、ハニーメリーのお花のお茶も持ってきました。美味しいですよ!」

「ありがとうリシア。でも、私ちょっとその花は苦手なんだけど……」

「子供の頃からそうでしたよね、ホムラ様なのに。やっぱり今でも苦手なんですね。でも、これは本当に美味しいですから、飲んでみてください」

「貴方が言うなら……。あら。本当にいい味ね」

「でしょう!?」


 話題のほとんどはリシアが何かを進めて、それをホムラが受け取ったり、口に含んだり、試したりするものばかりだった。


 子供の頃の綺麗だった花の思い出を否定されたのは悲しい事だったが、語り合う二人はとても楽しそうだった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る