第7話 初恋の少女と距離が縮まった
初恋が最悪の形で終わったばかりに発生した感情、新たな恋心を自覚したフェイは戸惑っていた。
変わってしまった、かつて好きだった人。
今傍で力になってくれる、これから好きになるかもしれない人。
二人の少女の存在が、フェイの心を惑わせていた。
その日は久々にホムラの護衛の任務が入った。
だが、順調だった公務は、途中でまたもやのトラブル発生。
中止を余儀なくされ、護衛騎士であるフェイの出番がやってきてしまっていた。
そんなトラブルの中で、ホムラが呆れた声を出す。
「まったく、貴方って本当におかしな人ね。嫌いな私を守る為に一緒に落ちるなんて」
「貴方を守るのが俺の仕事ですから」
返すフェイの言葉には少しばかりの疲労の色が含まれていた。
巫女の警護の任務の途中。
トラブルは、新しい鉱石が発掘されるようになったという、鉱石場の視察の最中に起きた。
作業員と話をしていたホムラだが、すぐ近くで地面がひび割れて地盤が沈下、ホムラはその崩落に巻き込まれてしまい、彼女を守ろうとしたフェイは共に地下空間へと落ちてしまっていた。
そして現在、以前使用されていたらしい坑道のどこかへと落下してしまったフェイ達は、地上への脱出を目指して暗がりの中を移動していく最中であった。
明りの無い坑道の移動は、遅々として進まない。
そんな中、壁に手をついて移動していたホムラが悲鳴を上げる。
「きゃああ、今何かが動いたわ。本当よ、嘘じゃないの、暗闇の中で動いたのよ!」
「お、落ち着いてくだい。エルミア様、今のはコウモリの羽ばたきですから。決して幽霊なんかじゃありませんって」
「っ、幽霊が怖いなんて私は一言も言ってないわよ。そんなもの、怖いわけけないでしょう!」
「そうだったら、震えながら抱き着いてくるのを止めてくださいませんか。固定されてると歩きにくいので」
「固定って何よ! 人を麻縄か何かみたいに。私は巫女なのよ、不敬よ。クビにしてやるんだから!」
移動が進まない理由はこれだった。
何かあれば、驚く、怖がるの繰り返しであるホムラの坑道の影響で、フェイたちは半日経っても日の目を見る事が出来ないでいたのだ。
「そろそろ地上では夜になる頃でしょうか。ここからでは分かりませんが」
それから数時間経って。
休憩を提案したフェイに従って、ホムラは土汚れを気にしながらも地面に腰を落ち着ける。
二人共、かなりの疲労が重なり過ぎていた為、言いあう気力すら残っていなかった。
「ねぇ、貴方は私の事を面倒くさいって思わないの? こんな我がままで、自分勝手な人間の護衛なんて、嫌になるでしょう?」
「自覚あったんですね。ええ、正直結構思いますけど。でも、仕事ですから」
「そう……」
「それに」
「それに?」
「最初の頃は嫌でしたけど、エルミア様はそんなに悪い人ではないって分かってきましたから」
最悪の出会いを果たしてからのホムラとの日々を思い起こすフェイ。
我が儘で自分勝手である事は変わらないものの、ホムラは浄化巫女としての仕事を完璧にこなし、役目を果たしていた。
「巫女様の受ける重圧は俺達のそれとは比べ物になりません。でしたら、多少の我がままくらいは笑って聞いて差し上げるべきかと」
「多少……ね。私、多少で済ませられるほど軽い我が儘を言って来たつもりはないのだけど、貴方ってほんと変な人」
フェイと悪女になってしまった初恋の少女との距離は、その日少しだけ縮まっていた。
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