第6話 初恋の痛みも忘れぬうちに



 しかし軽くなった空気は気休めに過ぎず、一向に飼い主の見つからない迷い犬の寂しそうな姿に、フェイ達は困り果てるしかなかった


 これは自分達の手にあまるだろうか、と。

 今日中に見つける事を半ば諦めかけていフェイだが、そこに声をかけるのはリシアだった。


「フェイ。これは、絶対他の人には言うなよ」


 彼女は、背中から一対の透明な羽を顕現させて、普段に見る姿を一瞬にして変化させたのだった。


「それは、その姿は……」

「私は精霊なんだ。そこらにふわふわ浮かんでるようなのじゃなくて、もっと上級の。他の人には黙っていてくれよな。精霊じゃ騎士にはなれないから」


 彼女の正体は精霊。

 精霊は精神生命体である存在で、本来なら人の姿をとる事は出来ないはずだったが、長く生きた精霊は姿を変えたり知恵をもったりする事があった。


 そんな彼女(彼等?)はしかし、持っている力が非常に強力なので、フェイたちのいる国メウィスの隣にある国……グウェン帝国などは戦争の為の道具としてしか見ていなかった。


 今いる国は精霊と共に生活していこうと考えている者達ばかりだが、両国が和平を結び続ける為には精霊の存在が目立つ立ち場にいるのは問題だったのだ。


「分かった、言わない。リシアは何ができるんだ?」

「壁抜けと、飛ぶ事ぐらい。不器用なんだ」

「そうなのか、まあでもそれだけ出来れば人間からすれば便利なものだけど」


 彼女はさっそく力を使って、遥か頭上へ浮かび上がり、迷い犬の飼い主を探しにいく。

 その方法が功をなしたのが、一時間後には無事に飼い主を発見する事が出来た。


 迷い犬を飼い主に引き合わせたあとで、フェイは疑問を口にする。


「何で、そんな大事な事を俺に?」

「何でだろうな。きっとフェイだったら、秘密にしてくれそうな気がしたから、かな」


 微笑まれた笑顔に、フェイは己の鼓動が高鳴るのを感じていた。


 つい少し前に恋愛なんて不可能だと思ったはずの自分の内心の変化に、フェイは呆れればいいのか、逞しいと開き直ればいいのか分からなくなった。


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