第4話 プロローグ 四

 『ここが、その場所か…。』

 次の日、竜雄は地図に示された、ビルに来ていた。

 『それにしても、綺麗なビルだな…。

 写真に撮りたいくらいだ。』

そのビルは竜雄が思った通りの綺麗さで、建設されてからまだ新しい雰囲気、またエリートビジネスマンが仕事をしていそうな雰囲気を、醸し出していた。

 『でも、あのおじさんのこと、信用してもいいんだろうか?

 あの人、リムジンに乗ってて、お金持ちの雰囲気だったけど…。

 何か、怪しいことに巻き込まれなければいいんだけどな…。』

竜雄はそのビルに着いてから、(いやその道中から)そう思ったが、やはり、

「500万円の借金が、帳消しになるかもしれない。」

という提案は、竜雄にとって魅力的だった。

 そして、竜雄は意を決して、そのビルの中に入った。

『このビル、内装も綺麗だな。

 まずは、受付の人に訊いてみよう。』

竜雄はそう思い、受付の女性に声をかけた。

 「あの、私、丸川という者ですが…。」

「丸川様ですね。少々お待ちください。」

受付嬢は、そう竜雄に伝えると、すぐにコールをかけた。

 「いやいや丸川さん。お待ちしておりました。」

 そう竜雄に声をかけながら、前回と同じ老紳士が、快活な雰囲気でビルの奥から、竜雄に近づいて来る。そしてその隣には、スーツ姿の青年がおり、竜雄の方を見ながら軽く会釈した。

 「丸川さん、あなたなら来てくれると、思っていました。

 それで、例の件ですが…、

 その前に一応言っておきますが、私たちはあなたに危害を加えるつもりは、一切ありません。

 でも、いきなりあんな提案をされても、信じられないですよね?当然です。

 そこで、今日は契約書を、持って来ました。

 マサキ、書類を出してもらえるかな?」

その老紳士の呼びかけに応じて、「マサキ」という名の青年は、カバンから書類を、取り出した。

 また、その青年は身長はそんなに高くない(だが竜雄よりは高く、170cm程と見受けられた。)ものの、きりっとした目を持っており、「男前」の部類に入る顔だろう、と竜雄は思った。また、かけている黒縁の眼鏡も似合っており、

『歳は俺の息子の高司(たかし)より上だろうな…30前かな?

 それにしてもこの子、見た目もいいし、いかにも仕事ができそうな子だな…。』

と、竜雄は思った。

 「これが、私たちとあなたとの、契約書となります。

 さあ、立ち話もなんですから、あそこのソファーで、話をしましょうか。」

そう言って老紳士は、ビルの自動ドアのすぐ近くの、ソファーとテーブルがあるスペースへ、竜雄を促した。

 『あの場所なら、何か危ないことになっても、ドアまで走れば逃げられそうだな…。』

竜雄はそう思い、老紳士の言葉に応じた。

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