第六章・その2
「なんだ、この地震は!?」
「お、おい、あれを見ろ。ドラゴンだぞ!!」
「なんだと!? なんでこんな家のなかで」
「都を襲って、勢力を広げるための武器にするんじゃなかったのか!?」
口々に喚きながら、吸血鬼たちが右往左往している。その間に俺は廊下を駆け抜け、ランベルトのアジトから飛びだした。そのまま森のなかを走り、もう大丈夫というところで立ち止まって俺は振りむいた。
「――こりゃ、すごいことになってるな」
星空の下で、巨大なドラゴンが取っ組み合っていた。キャロルとシャイアンだな。どっちがどっちだか、微妙に違うので見分けはつく。俺を殺せと命じられたキャロルは周囲を見まわし、シャイアンはそれをとめようとして、まるでレスリングみたいな状態になっていた。あの暴れっぷりだと、ランベルトのアジトも足元で粉砕されているだろう。
「アンソニーとランベルトも、これでどうにかなってくれればいいんだけどな」
俺はエルザを地面に降ろしながら、小さくつぶやいた。同時にエルザが右手をあげる。俺の独り言が聞こえたかな、と思ったが、そうではなかった。エルザは取っ組み合っているドラゴンを指さしたのである。
「ゲイン、見て。シャイアンが負けちゃう」
「は?」
「ほら、シャイアンが負けちゃう」
言われて、あらためて俺は取っ組み合ってるドラゴンを見た。――エルザの言うとおりだった。キャロルが押して、シャイアンが後退している。殴りつけるキャロルに対抗できないように見えた。
「そうか。シャイアンは姉妹とやりあっているからな。どうしたって本気になれない。ところが、キャロルは催眠術で操られているから、そのへんのことがわかってない。その差がでたか」
まあいい。どうせドラゴン化には時間制限がある。放っておけば、どっちもドラゴニュートの姿に戻るはずだ。放っておいても――と思った俺の腕がひかれた。みると、エルザが不安そうに俺を見あげていた。
「ゲイン、お願い。シャイアンを助けてあげて」
おいおいおいまたかよ。俺は困り顔でエルザを見た。
「あのな」
「お願い、シャイアンを助けてあげて。姉妹で殺し合いなんて、よくないから」
「――わかった」
ほかになんて言える? 俺は少し見まわして、近くの木を指さした。
「木登りはできるな? あの木に登って、高いところでおとなしくしてるんだぞ」
夜の森のなかでほったらかして、狼に襲われた、なんてことになったら何もかもが台無しだ。エルザがうなずくのを確認して、俺は背をむけた。
「じゃ、ちょっと行ってくるぜ」
ちょうど、雄たけびをあげながら、力尽きたシャイアンが地面に倒れ伏すところだった。キャロルも容赦ないな。以前、喧嘩したときとはレベルが違うと考えておくべきか。
つまり、俺もリミッターを外す必要があるってことになる。
「あ、貴様! 何をしにきた!?」
崩壊したランベルトのアジトに舞い戻ったら、そのランベルトが青い顔で俺に怒鳴りつけてきた。近くにヴィンセントとメアリー、ついでにアンソニーまでいる。アジトをぶっ壊されて、いがみ合ってる場合じゃなくなったらしい。
「貴様のせいで、儂の家が」
「自業自得だろうが」
俺は腕輪を外しながら言い、ドラゴン化したキャロルに目をむけた。キャロルもこっちをむく。少しの間、俺を眺める。
「ランベルト様が殺せと命じた男か?」
俺が獣化して外見が違っているからわからなかったらしい。俺は笑いながら胸を張った。
「その通りだ」
「では死ね」
言い、キャロルが前脚をあげた。そのまま俺に振り降ろしてくる。俺はひょいと両腕をあげた。キャロルの前脚を受け止めながら、さらなる獣化を意識する。派手な音を立てて、俺の着ている皮鎧がはじけ飛んだ。同時に地面が遠くなっていく。
俺の身体が巨大化しているのだ。
「な――!?」
ランベルトが唖然とした声をあげた。俺がドラゴンと同レベルの巨体になれるのが、よほど意外だったらしい。
「そんなに驚くことか?」
キャロルの前脚を跳ねのけながら、俺は小さくつぶやいた。俺の目線の高さがキャロルと同じになる。
「大魔導師アーバンの手で人間の姿にされたのは、ドラゴンやベヒモスやヒドラやサラマンダーだけじゃないんだぜ」
俺もだったのだ。もっとも、俺は最初から本来の姿に戻れたが。
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