第五章・その6

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 とりあえず、シャイアンの短剣をとりあげ、ほかに何も武器らしい武器を持っていないことを確認した俺は、とにかく作戦を考えた。


「エルフ連中、まだ生き残ってるか?」


 俺が訊いたら、シャイアンが少し考えた。


「たくさん生き残ってるわ。みんな、ランベルトの手下で吸血鬼化してるけど」


「そういう意味じゃない。吸血鬼化してなくて、エルフのままで生き残ってる連中はいないのかって話をしてるんだ」


「それは――」


 シャイアンが少し悲しそうにした。


「無理だと思うわ。エルフのままで放っておいたら、寝首をかかれるかもしれないしね。ランベルトも、徹底的にエルフたちを手下にしたでしょうし」


「だよな」


 俺も苦い顔でうなずいた。となると、エルフと同じレベルの魔法を使える魔導師を調達する必要がある。――あの街に、そのレベルの連中はいなかったな。都まで、ミーザに協力を頼むのも不可能だ。片道で三日かかる。シャイアンに、もう一度、ドラゴン化して運んでもらうのも無理か。まだ時間が必要なはずである。


「シャイアン」


 考えながら俺は声をかけた。


「君は魔法を使えるか?」


 俺の質問に、シャイアンが、何を言ってるんだ? という顔をした。


「冗談はやめてよ。そんなこと、私にできるわけないじゃない」


「だよな」


 あたりまえの返事である。うなずいて、俺はエルザのほうを見た。


「エルザは?」


 駄目で元々で質問したら、意外にも、エルザがちょっとうなずいた。


「私は、少し使えるけど」


「そうか。そりゃありがたい。さすがは大魔導師アーバンの孫娘で、聖騎士ガーディアの孫娘だな」


「え?」


 俺の横で、シャイアンが驚いた顔をした。


「その娘、聖騎士ガーディアの血も引いてたの?」


「どうもそうらしいんだ。まあ、それはいいとして。じゃ、エルフたちの使っていた、幻覚魔法を使えるか?」


「あ、残念だけど、それは無理」


 エルザが手を左右に振った。


「私は、お母様と一緒に、都で魔王の死体を研究したいと思っていたから、そういう魔力探知が専門で」


「そうか。じゃ、この計画はできない――魔力探知?」


 考えなおしかけて、俺はもう一度、エルザを見た。


「前、エルフたちに誘拐されて、神殿につれて行かれたことを覚えてるか?」


 訊いたら、エルザが、びく、と震えた。


「あ、怖がらせてすまなかった。いやな思い出だろうけど、確認したいことがある。そのとき、エルフのボスのアンソニーと、直接会ったことはあったか?」


「あ、うん、それは、ちょっとだけ」


「そのときの、アンソニーの魔力を、いまでも追えるか?」


 俺の質問に、エルザが少し考えるように首を傾げた。


「できるかどうかわからないけど、やってみるから」


「頼む」


 エルザが目をつぶった。その全身が、うっすらと光りはじめる。少しして、エルザが目をあけた。


「結構近い。あっち」


 森の奥をエルザが指さした。


「近いって、どれくらいだ?」


「本当に、すぐ」


「そうか」


 近いってのは半分だけ信用するとして、ほかに方法もない。俺はエルザを背負って走ることにした。俺の横にいたシャイアンも、慌ててつづく。


 そのまま、しばらく走っていると、不意に開けた場所にでた。崩壊した岩石がうず高く積まれている。


「――なんだここ。アンソニーたちがいた神殿の場所じゃないか」


 俺は崩壊した岩石の前で立ち止まった。なるほど、アンソニーが住んでいた場所だからな。そこに残留している魔力をエルザは探知してしまったんだろう。やっぱり、アンソニーの居場所を知ることは不可能か。――考えてる俺の顔の横でエルザが手を伸ばした。


「あそこにいる」


「は?」


 言われるまま、俺はエルザの指さした方向に目をむけた。


「あ!」


 俺は驚いた。よれよれの服を着たアンソニーが、本当にそこにいたのである。

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