第四章・その7

 で、とりあえずビルの外にでて、問答無用で冴子をふん縛って俺と護衛はビルに再侵入した。ちなみに冴子の口は護衛の手でふさがれている。俺の催眠術はかかるのかかからないのかよくわからなかったので、力づくで連行したのだ。


「もういいと思う。離していいぞ」


 二階の沙織の部屋まで行き、俺は護衛に命じた。言われたとおりに護衛が手を離す。


「ぶはあ!」


 同時に冴子がでかい息を吐いた。ぷはあではない。ぶはあである。いまさらだけど、品のない女だな。大げさにケホけホ言ってから、冴子が俺をにらみつける。


「あんたねえ。こんなところで、何やってるのよ」


「個人情報。ノーコメント」


 もう面倒臭いから無視して、俺はリリスのほうをむいた。


「あのな。もう近づくなと俺が命令したのに、冴子はここにきた。俺の催眠術じゃ、無理があるっぽい。ちょっと、代わりに頼む」


「わかりました」


 頭をさげるリリスとは対照的に、俺に視界の片隅で冴子が柳眉を釣り上げた。


「あんた、さっきから何を言ってるのよ? なんで、こんな変なとこに」


「とりあえず黙らせてよろしいでしょうか?」


 リリスが質問してきた。うなずく。


「まかせるぞ」


「わかりました」


 返事をし、リリスが冴子に手をむけた。同時に冴子がおとなしくなる。ちょっと興味があったのでのぞきこんでみると、冴子は茫然自失って顔をしていた。感情が見られない。


「たいしたもんだな」


「恐れ入ります」


 俺の賞賛にリリスが返し、冴子に手をむけたまま、ゆっくりと近づいて行った。そのまま俺のほうをむく。


「まずは記憶の改竄だな。今日のことは忘れるように言ってくれ。それから、ここには二度と近づかないように、強烈な暗示をかけてくれると嬉しい」


「わかりました」


 リリスが一礼し、顔をあげて冴子のほうをむいた。何やら集中するように眉をひそめる。


 次の瞬間、リリスの目が見開かれた。


「驚きました。この娘、以前に催眠術をかけられています」


「そりゃ、俺が昨日かけたからな」


「それではありません」


 リリスの返事は予想外だった。


「この娘、ほかの六大鬼族に催眠術をかけられています。光沢様を監視するようにと」

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