第五章・その1

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「じゃ、これ借りますんで」


 とりあえず、一番頑丈で、一番カスタム化された勇者剣を拝借し、あらためて俺はエレベーターに乗った。目黒さんもついてくる。


「今後、私どもはどうすればいいのでしょう?」


「そうですね。――マイヤードは何か言ってましたか?」


「特に、何も」


「ふむ、では、ここで待っていてください」


「――は?」


 俺の言葉に、目黒さんが意外そうな顔をした。


「それでよろしいのでしょうか?」


「だって、マイヤードがきたとき、誰も抵抗できないで呪縛されていたじゃありませんか。もう一回、奴と相対したって、同じことになるに決まっています。そういう人たちがきてくれても、足手まといになるだけなんですよ」


 俺の説明に、目黒さんが一瞬詰まった。少しして俺に頭を下げる。


「確かに。お力添えにならなくて申し訳ありません」


「気にしなくていいです。それから、もし俺が帰ってこなかったら――まあ、帰ってきてもですけど、俺が六大勇者の生まれ変わりかもしれないという話は、目黒さんが勝手に想像してるだけのことで、証拠なんか何もありませんから、他言無用ということで」


 もう一度、目黒さんが意外そうな顔をした。


「それは――」


「いままで黙ってたんです。いきなりワーワー言われるのも、ちょっと抵抗があって。と、六大勇者の生まれ変わりなら、言ったかもしれませんね」


 少しして、またもや目黒さんが頭を下げた。


「承知しました」


「頭なんか下げなくてもいいですよ。ここで一番偉いのはあなたです」


 地上一階にあがり、俺はエレベーターをでた。


「さて、むこうさんも、どういう風に接触してくるかな。とりあえず、俺はここをでます。もし、こっちに何か連絡があったら俺のスマホにどうぞ」


「あ、おまえ、どういうつもりなんだ!」


 そのまま俺が玄関まで歩いていたら、いきなり曲がり角から横から人が飛びだしてきた。大崎の光さんである。そういえば、トレーニングルームでは気絶していたからな。


「あ、目が覚めたんですね。大丈夫でしたか?」


「大丈夫でしたか、じゃないだろうが。――痛つつつ」


 眉をひそめて俺に突っかかりかけ、そのまま光さんが顔をしかめて立ち止まった。折れたアバラに響いたらしい。それでもなんとか光さんが俺をにらみつける。


「おまえ、あのとき、普通の手合わせだって約束だったろうが。それを、いきなり、こんな」


 俺がアバラをへし折ったことを言ってるらしい。助けてくれてありがとうのひと言もないのか。まあ、気絶していて知らないのかもしれないが。


「あのときはすみませんでした。俺もどれくらいやっちゃっていいのか、よくわかってなくて。つか、いま急いでるんで」


「なんだと、ふざけてるのか」


「ひかえろ馬鹿者が!!」


 ここで目黒さんが一喝した。大崎の光さんが、ぎょっとした顔で目黒さんを見る。


「あ、あの」


「いいか、このお方は」


「俺はただの下っ端です」


 なんか、勢いに任せて、勝手な思い込みで俺のことをしゃべりそうな感じだったから、俺は目黒さんの言葉をさえぎっておいた。静かに目をむけると、目黒さんがおとなしくなる。俺は大崎の光さんのほうをむいた。


「じゃ、ちょっと行ってきますんで。もし、無事に帰ってこられたら、そのときは話を聞きますから」


「あ、おまえ、ちょっと待て!」


「待つのは貴様だ馬鹿者!!」


 大崎の光さんが俺に絡みかけ、またもや目黒さんに怒鳴りつけられていた。――なんて言う風に説教を食らうのか、ちょっと興味もあったが、それよりも、俺はとにかく勇者同盟の集会所をでた。やることの優先順位は決まっている。


 聖菜と、ユーファの救出だった。

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