第四章・その8
「こちらです」
目黒さんにつれられ、俺は勇者同盟の奥まで案内された。勇者同盟のなかでも、トップレベルの人間しか侵入できないエリアである。そこにエレベーターがある。こんなところをつくってたのか。
「地下三階に保管庫があります。そこに、カスタム化された勇者剣が」
「そりゃどうも。できれば同行してくれますか?」
「わかりました」
一応、敬語を使ったんだが、目黒さんの、俺に対する言葉使いも変わらなかった。そのままエレベーターに乗り込む。
「質問をよろしいでしょうか」
地下三階のボタンを押して、扉が自動で閉まるまで待っている間に目黒さんが訊いてきた。
「なんすか?」
「私の曽祖父が、初代である六大勇者のひとり、『目黒』の妻の弟の子供――ですから、甥にあたるのですが、生前、言っておりました。六大勇者は、すべてではないが、一部のものが転生の術をかけた。いずれ、前世の記憶を持った状態で生まれてくる、いま存在する勇者同盟は、かつての六大勇者の力を受け継ぐ人間を育成するのが目的で結成されたのではない。転生した六大勇者を支援するために存在するのだ」
「へえ」
俺も知らなかった話である。そんなことになっていたのか。
「驚きましたね」
俺は目黒さんのほうをむいた。
「でも、そんな機密事項、俺みたいな下っ端に軽々しくしゃべっちゃっていいんですか?」
「ご冗談を」
俺のすっとぼけは、もう効かないって顔で目黒さんがつぶやいた。
「実際、私も目にするまで、半信半疑でしたが。曽祖父の言葉は真実だったのですな。しかし、それでもわからないことがあります。私からの質問はこれです。――なぜ、素性を隠して、目立った成績をあげようともなされないのですか?」
「そんなこと、俺みたいなのに聞かれても、想像で、たぶんこうなんじゃないかって返事をするしかできませんよ」
「それでもかまいません」
「じゃ、これは、勝手な思い込みで適当に言うんですけど」
俺は、どう説明したらいいのか、少し考えた。
「人間って、時間が経てば、主義主張が変わるものなんですよ。それに、時代も違いますし。その昔、魔王は六大勇者に平伏しました。そして言ってましたよ。負けを認める。魔王としての権力を振りかざし、下のものに命令することも一切しない。だから殺さないでほしい」
「ほう」
「その言葉を六大勇者は聞き入れました。しかし、完全に信用したわけでもなかった。だから転生の術をかけたんでしょう。けれど、魔王は約束をきちんと守っていました。――冷静に考えれば、当然ですよね。羊皮紙の契約書で人間と密約を交わして、天国へ行けるはずの人間の魂を合法的に奪っていた連中なんですから。そういう意味では、人間以上に約束を守ることにこだわっていても仕方がないはずです」
「確かに」
「というわけで、転生した六大勇者にはやることがなかった。いまも魔王軍の残党委が馬鹿なことやってますけど、頂点である魔王が何も指示をださないから、まるで行動に統一性がない。――要するに、以前のような組織だった行動ができない。だったら強敵と判断する必要もない。ではどうする? 無意味に殺す必要もないはずです。正直、俺は血に飽いていました」
「なるほど」
「と、六大勇者の生まれ変わりなら、言ったかもしれませんね」
「かもしれません」
「さらに言うなら、その程度の連中、六大勇者の子孫の、少し優秀なレベルのものでも十分に対応が可能なはずです。自分がでる幕ではない。ならば、前のときのような魔王軍との死闘でピリピリするのではなく、のんびりと、悠々自適に生きていてもいいのではないか。それに、もう時代が違う。これからは、新しい人間を育成するべきだ。――まあ、俺が本当に初代六大勇者の生まれ変わりだったら、そう考えたかもしれません」
「お話はわかりました」
チーン、と音がして、エレベーターが開いた。
「どうぞ。初代の六大勇者が使用した剣を、できるだけ再現したレプリカもございます」
「再現したレプリカよりも、原点を超える、もっとすごい勇者剣があったら、ぜひとも貸してほしいのですが」
「――ほう」
エレベーターからでて、保管庫のなかを見まわしながら言ったら、視界の隅で、目黒さんが意外そうな顔をした。
「我々は、初代の六大勇者が使用した勇者剣を、可能な限り再現することに死力を尽くしてきたのですが」
「それは間違った伝統ですよ。俺たちのやってきたことは一〇〇パーセントの正義じゃない。もちろん、使っていた武器も、究極ってわけじゃなかった。技術は日々進歩しています。かつての武器を超えるものをつくったって、何もおかしいことはないんですよ」
「これは――もったいないお言葉を」
「と、六大勇者の生まれ変わりだったら、言ったかもしれませんね」
「ではこちらへ。六大勇者の生まれ変わりかもしれないお方」
目黒さんが少しだけ微笑み、俺を保管庫の奥へ案内した。
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