新宿異能大戦77『愛の戦士』
「……り、」
その男が現れた瞬間、重くどす黒かった空気がいささか軽くなった気がした。
「リチャード・L・ワシントン……!」
「ああそうだとも」
当たり前のような返答。
まるで金糸のように輝く金髪をした男はその名を噛みしめるようにして英人の隣に立つ。
「合衆国の『
その声色には、なおも揺ぎ無い自身と自負があった。
「そして其処にいるのは世に悪名高い黙じ」
――ゴオオオオオオオッ!!
「――――!」
何の前触れも情緒もなく、黒白の騎士から白き閃光が放たれる。
当然だ、圧倒的な上位の存在が下々の言葉を待つことなどするはずもない。
しかし、
――――ガガガガガガガガガッ!
「結構な挨拶だな、騎士よ」
この男も技術もまた、道理の外。
凄まじいまでの速射と連射で敵の攻撃をかき消した。
「──────────」
「気に障ったか?
だが相手の格を見誤った君も悪い、道理に合わぬ怒りは収めてもらいたいものだ、」
間髪入れず、今度は三連。
とはいえそれは、宙を舞う羽虫に対して手を振り上げるようなもの。殺意はあれど、本気ではない。
未だにこちらに一瞥すらくれないのがそのいい証拠だろう。
「な!!!」
――――ガガガガガガガガガガガガガガガガッ!
「──────────」
「おお、どうやら虫は苦手らしい」
だがそれも、相手が予想外にしぶとければ話は別。
三連撃、さらにその後に追加で放った五連撃すらも容易く捌ききった男に対し、騎士はようやくその歩みを止めた。
「さて、この調子だと千日手だ。
ふっ、まさか黙示禄の四騎士ともあろう存在がたかだか人間一人に手こずるとは」
「──────────」
「これでは『魔王』の名も廃るというものだな」
瞬間、リチャードの眼前に所狭しと高純度、高出力の魔弾が生成され、彼目掛けて放たれた。
怒りに任せた攻撃か、もはやそれは羽虫を払うには過ぎた威力であった。
「――っ!
八坂英人!」
「っ!?」
「そこから一歩も動くなよ!!!」
そう叫びながらリチャードは口角を上げ二丁拳銃を構えた。
迫るは万を超える魔弾の雨。齢三百を超えるリチャードだが、『現実世界』はおろか『異世界』でもここまで絶望的な光景は見たことがない。
「だが、いつも通りだ……!」
しかし『最高』の男がやるべきことはいつだって同じだった。
構え、狙い、撃つ――ただそれだけである。『現実世界』において銃という武器を初めて知って以来、この三動作だけをひたすらに繰り返してきた。
内戦の時も。
大戦の時も。
冷戦の時も。
異なる時代、異なるシチュエーションで洗練され続けた技術に淀みなどあろうはずもない。
一発一発を正確に、そしてそれを光速の回転率で繰り返し続ける。
「……刮目しろ、八坂英人」
そんな宝石の如き至高の技術は遂に、
「これが『最高』の仕事だ」
降り注ぐ絶望をも跳ね返すに至った。
「────────────────」
「そして黙示禄の騎士よ」
『最高』の男は額の汗を拭う。
「少しは本気を出せ」
「────────────────」
それは明白な宣戦布告だった。
無論、黒白の騎士は表情ひとつ変えることはない。が、明らかに纏う雰囲気が変化した。
「…………!」
「いやはや、言うだけのことはある。
黙示禄が一騎、リザリア=ブランシーヌよ」
もはや近くに立っているだけで体が軋み、傷が疼く。
並の人間ならその場で気を失ったっておかしくないだろう。
「リチャード……!」
「不安そうな声をだすなよ八坂英人。
私はこいつを待ってたんだ、最初からね」
そう言って笑い、リチャードは静かに一歩前に出る。
対する黒白の騎士は冷めた目で此方を見つめて魔力を溜めた。
「────────────────」
ぞぞぞ、というかくもおぞましき音と共に形成されるは最高純度の魔力の天体。
眼前の存在全てを滅ぼす――おそらくはそれ以外の意志など、そこには込められてはいまい。
しかし、それでも込めていることには違いない。
つまりは数秒ばかりの隙が生じる。
「来た……!」
そしてそれを、リチャード・L・ワシントンは待っていた。
手早く左手の拳銃を放り、そのまま残ったもう一丁の拳銃を両手に握って上げる。一つ一つの動作をなぞるように、ゆっくりと。
「――――!
リチャード、一体何を……?」
後背ではいつの間にか覚醒していた
そうだ、確かにリチャードの放つ魔弾は威力もすごいが、その真骨頂はあくまでその圧倒的なまでの速射と連射。その点で言えばいま目の前にある彼の姿は全く以てらしくない。
敵が隙を晒しているというのなら、それこそ何千発でも叩き込めばいいではないか。
「……あいにく、生涯かけて溜め込んできた魔弾はさっきでほぼ打ち止めだ。
もうあれを捌けるほどの数はない」
だがそんな二人の内心を読んだかのようにリチャードは呟く。
京都での
おそらくは有馬ユウの作戦の一環だったのだろう、リチャードの保有する弾丸は度重なる大量消費によって遂に底がついた。
つまり今の彼には攻撃の手段がない。
――――が、
「しかし、まだ私がいる」
『最高』だった男は笑い、静かに狙いを定めた。
そう、これは技術でも仕事でもない。
仕事はほんの先刻終了した。後に残るは、それは己の全てを乗せるという独りよがりな行為のみ。
リチャード・L・ワシントンが最期に残した弾は、自分自身であった。
国家の為に戦った。
自由の為に戦った。
そして最期は、最初から決めている。
「
肉体も。
命も。
存在も。
全てを乗せて放つ一撃を、合衆国人として生きたエルフはこう呼ぶ。
「『
その時、一条の流れ星が世界を照らした。
【お知らせ】
いつも拙作をお読みいただき、ありがとうございます。
次回の更新ですが、所用によりお休みさせていただきます。
またもお休みとなってしまい、大変申し訳ございません……
次回更新は7月2日(土)予定です!
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