新宿異能大戦68『パクったモン勝ち』

――『悪魔デビル』。


 それは、人々が思い描く『悪』のカタチ。

 そして人類を惑わし、堕落させ、絶望へと導く天敵。


 十二月二十五日――奇しくも救世主の誕生日と同じ日に、それは顕現した。


『――世界の皆さん、改めてご挨拶を』


 胸にそっと手を当て、美青年はそっと微笑む。

 今、彼の姿と声は全世界の人々の脳内に直接響いている。『新宿異能大戦』のルール説明と同じ、誰にも拒めない悪魔の囁き。

 そして全ての人類が瞬時に理解した。


『僕が悪魔だ』


 美しさとおぞましさは両立する!


「『絶剣リヴァイアス流転八連瀧オクタヴィア』!!」


 八つの瀑布が『悪魔デビル』の体を一気に飲み込んだ。

 まるでその悪意ごと洗い流さんとする勢いに、崩れかけたビルは完全に倒壊し、辺りは終末さながらの光景となる。


「――人が喋っている途中だと言うのに。

 随分と忙しないね、元『英雄』は」


 だがその呆れ声と共に、大質量の水は一瞬にして動かなくなった。

 否、凍り付いた。


「ま、もとより自己紹介程度に留めとくつもりだったけどさ。色々しんどいし。

 まずは『悪魔デビル』が実在することを信じさせる、それが大事だ」


「――――!」


「『悪』にも希望が必要だからね。

 そして希望には偶像という担保が要る。」


 言いながら、ザハドは裸足で氷の上を歩く。

 端正な顔立ちといい、黄金比の肢体といい、まさしく宗教画のような出で立ち。

 羽が黒色でさえなければ天使を見紛うほどの神々しさだった。


「さぁ、早く次を寄こしなよ。

 正しいと思うのなら」


 思うよりも早く、英人は動く。


「『英雄変化トランスヒーローオン最強の戦士ウォリアー・オブ・ストロンゲスト』!!!!」


 その見に宿すは限界なき『強化』の力。

 英人の肉体はすぐさま亜音速に迫り、『絶剣』の切っ先がザハドの喉元を狙う。


「残念」


 しかし彼の白い掌によって、渾身の一撃は阻まれた。


「く……ッ!」


「そら」


 ザハドがそのまま手を押すと、英人の体は数メートル後ずさりした。


「あいたたた……この姿で血流すのなんて久しぶりだなぁ。

 流石は『神器』、それに『英雄』の力……っと、」


「おおおおおおおっ!!!」


「そしてこっちの方は程よく熱い」


 義堂による『滅刀』の一撃を手の甲で受けながら、ザハドは涼しく笑った。


「ほら、もっと力入れてくれないと届かないよ?」


「ぐ……くぉっ!?」


 それはまるで寄ってくる羽虫を払いのけるかの如し。

 ひらりとザハドが手を翻しただけで、義堂の体は後方へと吹き飛ばされた。


「義堂!!」


「大丈夫だ、強く押されただけでダメージはない。

 それよりもこちらの刃がまるで通らないのが問題だ……これが奴の能力なのか?」


 片膝をついて着地しながら義堂は言う。

 すると英人は顔をしかめ、


「……いや、もっと単純だ。

 ありゃ魔力を垂れ流しているだけだな」


「何……!?」


「それもとんでもなく高密度なやつを絶えず出し続けている。

 ……『魔法』も『異能』も関係ねぇ、奴が今やっているのは質と量に任せたゴリ押しだ」


――――ゴオオオオオオオッ!!!!


 言い終えた瞬間、英人の視界全てが眩く光った。

 それは『異能』どころか『魔法』ですらない、ただの魔力の奔流。


「失礼だな。

 有り余る資源の有効活用と言ってくれ」


 おそらくはこの世でもっとも単純かつ明快な攻撃であると言えた。


「く……っ!」

 

 焼き飛ばされた左腕を『再現』しながら、英人は瓦礫の中から立ち上がる。

 どんな攻撃が来てもいいように『エンチャント・ライトニング』を発動させていた筈だったが、それでも回避が間に合わなかった。


(奴からしてみれば、体に纏っているモンを飛ばしただけだからな。

 『魔法』じゃねぇから詠唱も要らないし、予備動作すらない。

 無傷で避けるのは不可能か……)


 英人は義堂の方へと振り向く。無傷だ。

 彼については、『無双陣羽織むそうじんばおり』に宿った瞬間移動の『異能』、『丹羽破り』があるから回避しきることが可能なのだろう。

 しかし英人には現状高速移動の手段はあっても瞬間移動の手段はない。


「……なら、真似ればいい」


 英人は武器を『聖剣』持ち替え、走った。


「かく言う君もゴリ押しかい!?」


 直後、眼前には大質量の魔力が迫る。

 『再現』による高い再生能力を持つ英人と言えど、直撃すればその存在ごと消し飛びかねない。

 英人は瞬時に魔力を全身へと巡らせる。


「――――――!」


 思い出すは、茅ヶ崎ちがさき十然じゅうぜんとの死闘で掴んだ、あの感覚。

 すなわちそれはあらゆる力を模倣し、取り込み、戦う覚悟。

 奇しくも自然そのものと言っていい彼の『異能』を取り込んだ事によって、『再現』の解釈は広がった。


(そうだ、何も肉体だけが『再現』の対象じゃあない。

 精神、概念、『異能』――小さくまとまるな。

 もっと、もっと、自分の可能性を爆発させろ――!)


 英人は目を見開き、叫ぶ。


「『再現異能トランスアビリティ』――!!」


 直後、魔力の奔流が英人を飲み込んだ。

 

――――ゴオオオオオオオオオッ!!!


「八坂!」


 焦るような義堂の声とは対照的に、ザハドはニヤリと笑う。


「おや? ミスとはらしくないなぁ。

 僕としてはそれでいいけど」


「――とんでもねぇ、大成功だよ」


「な――」


 振り向くより早く、英人は『聖剣』を振り上げる。


「お前が使ってた瞬間移動の『異能』、パクらせてもらったよ。

 こいつはその礼だ」




「『魔を断ちヘイ光指し示す剣ムダル』!!!」




 今度は『悪魔デビル』が、光の波に包まれた。





【お知らせ】

いつも拙作を読んでいただき、ありがとうございます。


次回以降の更新ですが、申し訳ありませんが三週間程お休みさせて頂きます。

どーも年度末ってことでちょっとゴタゴタしちゃいそうでして……

楽しみにしてる方には大変申し訳ありません。


なので次回は4/9(土)予定です!

よろしくお願いします!

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