新宿異能大戦69『超人たち』
十二月二十五日
午前1時13分。
英人の放った『
しかし、
「おおおおおおおおらぁっ!!!」
「ほらそっち送ったよ、リチャード!
さっさとブチかませ!」
「言われずとも!」
それに僅かな気を回す余裕すらない程、そこは修羅場と化していた。
新宿駅跡地より南に五十メートル。
『異世界』より漏れ出たる『魔獣』の群れと、この世界における最強の『異能者』である『
――ドドドドドドドドドドッ!!!
「GYAAッ!!」
「GAッ!?」
引き金が一つ引かれる度に、少なくとも三つの命に風穴が空く。
それも間髪を入れず、一秒の間に次々と。
積みあがる死体の山。守る側にとっては当然有利な状況となる。
「……言いたかないけど、流石だねぇ。
相も変わらずとんでもない火力と連射速度だよ」
数分ぶりの一息をつき、
「ハハハそれは光栄だな!
しかし個人的には狙いの正確さの方を褒めてくれると、嬉しいのだだがね!」
――ダァンッ!
たった一つの銃声で、今度は八つの断末魔が上がる。
貫通した魔弾は八体の『魔獣』の急所を正確に射抜いていた。完璧なタイミングと精密性が無ければ出来ない芸当である。
「うーん飛び道具は避けてたけど、私も銃使ってみようかなぁ。
何か楽チンそうだし」
「なら私が直々にレクチャーしてやろうか? 人民共和国の『
「独学派だから結構です、っと」
言いながら
「それに見てて何となくコツは分かったし」
「ほう」
リチャードが答えると同時に赤天の体は羽毛のようにふわりと浮き上がり、『魔獣』の群れの上を跳ねまわっていく。
それはまるで水が高きから低きにながれるように流麗で、一切の無駄がなかった。
「GAAッ!!!」
「よっ」
敵の攻撃は全てが空を切り、
「それ」
「GYAッ!?」
自らの一撃は寸分の狂いもなく敵の急所を打ち付ける。
どれだけの怪物に囲まれていようと、合理の粋を集めたようなその動きには一切の淀みはなかった。
最小の動き。
最弱の力み。
最大の戦果。
それは古今東西あらゆる武術において理想とされたもの。そして彼女はそれを誰に教わるのでもなく宿していた。
五年前、弱冠十四歳にて史上最年少の『
「生まれながらに理を
――バァン!
魔弾ではない、実弾による銃声が鳴る。
断末魔さえなく倒れる『魔獣』。
いつの間に拾ったのだろう、リボルバー片手に赤天は振り返り、
「こんな感じ、でしょ?」
得意げに笑った。
「後はそれが秒間三発できるようになれば言うことなしだ」
「ありゃ意外と厳しい」
適当に返しながら、赤天は再び群れの上を舞っていく。
「あれが黄赤天……戦う姿は初めて見るけど、すごいねぇ。
純粋な才能という点で見れば、多分世界一だよあれは」
「だろうな。
他方世界一の肉体となると……やはりアレだな」
「――ハッ、ハハハハハハハハァッ!!」
群れの一部が、まるでゴムボールのように跳ねあがった。
連邦共和国の『
人類の究極とも言うべきその肉体は『異世界』産の『魔獣』相手でも見劣りしていなかった。
「さぁどんどん来い!
我だけが遅れを取るわけにはいかんからな!」
「GAAAAAAAAAッ!!!」
「それでいい!」
歓喜の表情を浮かべ、ギレスブイグは『魔獣』とがっぷり四つになる。
軋み合う、互いの肉と骨。
「ぐ、く……」
「GA、ア……!」
「お、オオオオオオオオ……っ!」
「ア……!?」
だが徐々に、徐々に、ギレスブイグの丸太のような腕が『魔獣』の肉体を締め上げていく。
「オオオオオオオオオオオ!!!!」
「A”A”A”A”A”ッ!!!!」
そして響く、男の雄叫びと獣の悲鳴。
さらには肋が粉砕される音を轟かせながら、『魔獣』はぐったりとその場に落ちた。
「最高だ……! やはり怪物を倒してこその、英雄。
宿る細胞が余す所なく燃えている……!」
最高の肉体を持つ男は、仁王立ちになって『魔獣』の群れへと立ちはだかる。
「今日の我は強いぞ、化物ども!」
その出で立ちはまさしく、祖国の英雄ジーグフリートそのものだった。
「……凄まじいな。
生まれ変わりがと言うのも納得できる」
それを横目で見ながら、トレンチコートに身を包んだ長身の男がナイフ片手に構えを取る。
迫る『魔獣』の爪牙。
彼はそれを最小限の動きで躱し、
「……私は私の責務を果たすだけだ」
心の臓腑を、ナイフで深く突き刺した。
「GA、A……!」
「……とはいえ、流石に彼等のようにはいかない」
ぐったりと絶命する『魔獣』の後ろからはさらに無数の爪牙が男に襲い掛かる。
だが、彼が慌てることはない。
全てが視える。
全てが聴こえる。
それは彼が生まれながらにして持つ、超人的な五感。
『異能』を持たないからこそ必死にそれを磨き続けてきた。
「……だがそれでいい、」
後は己に課した責務に従うのみ。
「……私は、『
その男の名は、ケネス=シャーウッドと言った。
◇
「……思ったより、持ってるね」
「ああ」
純子の言葉に、引き金を引きながらリチャードは答えた。
事実、たった五人という小勢ながら驚くほどの粘り強さを見せていた。
黄赤天、ギレスブイグ=フォン=シュトュルム、ケネス=シャーウッドの人並外れた奮戦。
さらには長津純子の『
だがやはり何と言ってもこの男の存在が大きかった。
――ドドドドドドドドドドドドドッ!!!
「この調子で行くぞ、純子」
最強の『
彼の大火力があるからこそ圧倒的な戦力差を辛うじて埋められているのだ。
しかし、
(……いよいよ底が見えてきたか。
やれやれ、なけなしの魔力を二百年以上毎日欠かさず備蓄してきたというのに)
それもまた、終わりに近づきつつあった。
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