新宿異能大戦53『来たぜCIA』
午前0時28分。
小田急小田原線南新宿駅付近。
『――緊急連絡、緊急連絡。
クリア者情報が更新されました!
記念すべきその一人目は、
「これは……!」
有馬ユウの元へ急ぐ義堂の耳にも、クリアを知らせるアナウンスは届いていた。
「どうやら出ちまったみたいだねぇ、クリア者とやら」
「ま、開始してからぼちぼち三時間だし出はするでしょ」
隣では
いま義堂は彼女ら二人と共に有馬ユウの待つ東京都庁へ向かう途中だった。僅か三人での行動となったのは少数精鋭の方がいいという判断からであり、残りの警察官は新宿御苑の警備と他の参加者救出を行っている。
「とにかく、俄然急ぐ必要が出てきたということでしょう。
早く都庁に向かわないと……!」
「その必要はない」
突如聞こえた声に一同は振り向く。
するとそこには銀のスーツに身を包んだ金髪の男が、不敵な笑みを浮かべて立っていた。
「リチャード・L・ワシントン……」
「やぁ誠一、純子。
それに大陸から来たお転婆娘もどうやら元気そうでなりよりだ」
「貴方から見れば人類みな小娘小僧みたいなものじゃないか?
まぁそれはともかくとしてさ……もしかして
「正確には外れを引かされた、だな」
リチャードは心底不満そうな顔を浮かべて息を吐いた。
「外れ?」
「都庁にいたのは奴を模した影武者だった。
もっとも、有馬ユウの細胞をベースとしたクローンに『異能』を詰め込み、さらには奴自身の力も分け与えているという徹底ぶりだ。
力だけで言えば君たちが戦ったという『使徒』と何ら遜色なかったよ」
「有馬に影武者が……」
義堂は自身の顎を押さえて俯いた。
確かに国際テロ組織の首領である以上、影武者を使っている可能性は十分ある。
しかし有馬ユウがそれを用意するというのは、これまでの彼の言動から言ってあまりにも意外過ぎたのだ。
「まぁそういう反応になるだろうな。恥ずかしながら私も君と同じ先入観を持っていた。
おそらくはこの日の為に作られた特注品だったのだろうが……無様にも奴が影武者だと気付くのに遅れ、余計な時間と弾を使い過ぎてしまった。
お陰でクリスマスの夜に一人寂しく街をブラブラさ」
「……つまり、リチャード・L・ワシントンともあろう者がいとも簡単に出し抜かれてしまったという訳だね。
困るよ、こんな時に耄碌なんてされちゃ」
純子は腕を組んで言った。
「ハハハ返す言葉もない。
何、この失態は最高の仕事で埋め合わせるつもりさ。丁度おあつらえ向きな手掛かりも降ってきたことだしね」
「手掛かり、と言うと……」
「先程のアナウンスだ」
リチャードの言葉に義堂は数舜考えた後「ああ」と納得したように頷いた。
「山北巽、彼の跡を追えば有馬ユウまで繋がる……!」
「そういうことだ」
そう言ってリチャードは懐から端末を取り出し、マップを広げる。
おそらくは山北巽の現在地を示しているだろう赤い点は、東新宿から新宿駅方向へとゆっくり動いていた。
「この通り事前に潜入しているCIAからの情報により、奴の現在地は割れている。
我々はこれを先回りして確保し、そのまま一気に有馬ユウを叩く。
いいかね、諸君?」
「分かった」
「はいよ」
「りょうかーい。
でも、」
三者三様の返事が返ってくる中、赤天だけが面倒くさそうに辺りを見回す。
「よくない連中が先に来ちゃったみたい……ねっと」
「ぐあッ!?」
そのまま足元にあったコンクリ片を蹴り飛ばすと、悲鳴と共に男が倒れる。
さらにそれを皮切りにして、
「クソ、気付かれやがって。使えねぇ……!」
「はっ、元々早いモン勝ちなんだ。
バレた所で関係あるか」
「ひぃふぅみぃ……合計150ポイント。
はは、これで一気にクリアだ!」
「ポイント異世界ポイント異世界ポイント異世界……!」
目を血走らせ、焦燥した表情を浮かべた人々がおよそ数十人、物陰より姿を現した。
「蟲毒を生き抜き、殺しにどっぷりと浸かった『異能者』どもか。
クリア者だ出たことでさらに気が逸っていると見えるな」
「余裕綽々って態度だけど大丈夫かい?
ここまで生き残ってるってことはそこそこレベル高いよ、奴等」
「ですね。
レベルアップで『異能』も底上げされているでしょうし、そもそもここまで残れている時点でそれなりのセンスがあるという事でしょう。
油断は出来ない」
「ハハハハハ。実に日本人らしい慎重な忠告、痛み入る。
ああ皮肉ではないぞ?
慎重論はいつだって必要だからな……だが、」
リチャードは声を上げて笑いながら、専用の拳銃を構える。
「所詮は血に酔わされる程度の凡夫ども。
多少筋は良いようだが……才能の話を『
だろう? お転婆娘よ」
「だね。
ま、正直あんまり筋も良くないと思うけど」
さらにその隣では赤天も首をコキリと鳴らして棒を携える。
ただそれだけで、周囲の空気はガラリと変わった。
「さぁ手早く片付けて新宿駅に向かうとしよう。
ほら君もさっさと準備をし給え誠一。あまり大陸の人間に活躍されると、後が面倒だぞ?」
「本人の前でそれ言う?
ねぇ日本の『
「『
振り向く赤天の横切ったのは、赤い影。そしてそれは赤き甲冑に身を包んだ義堂誠一の姿。
彼はそのまま『炎神ノ滅刀』を振り上げ、
「おおおおおおおおおおおおっ!」
一太刀の下、『異能者』たちの先陣を切り払った。
「ハハハ! 見ないうちにやるようになったな誠一!
喜ばしいぞ!」
「それはどうも!」
リチャードの言葉を背に受けながら、義堂はさらに『異能者』を峰打ちで斬り伏せていく。クリア者の出現を受けて有馬ユウがどのような行動を取るかは不明確だが、少なくとも接触だけは防がねばならない。
(そう、今の俺は日本の『
この国を守護する者として、俺自身がその先陣を切る!)
義堂は構え、第二陣と対峙する。
『――緊急連絡、緊急連絡。
クリア者情報が更新されました!
二人目の達成者は、ジェイソン=サリヴァン! おめでとうございます!』
だがその矢先、クリア者を知らせるアナウンスが再び新宿に鳴り響いた。
「もう二人目……!?」
面頬の下で義堂は眉を
クリア者が山北巽ただ一人だとは思ってなかったが、こんな早くに二人目が現れるとは思ってもみなかった。
もしかすれば事態は相当悪いのではないか、と思った時。
「リチャード……?」
自分以上に険しい表情を浮かべるリチャードの姿が目に入った。
「む……ああ、顔に出てしまったか」
「何かマズいことでも?」
義堂は詰め寄って聞いた。
短い付き合いだが、明らかに先程の表情は義堂も初めて見る程に異常だったからだ。
「何でもない、と言いたい所だが……流石に誤魔化すのは無理か。
まぁ単純にジェイソン=サリヴァン、彼とは多少面識があるというだけだ」
「誰なんです……?」
静かに尋ねる義堂に、リチャードは一拍おいて口を開く。
「……CIAだ」
返って来たのは、たった一言。
だが事態の複雑さを表すには十分だった。
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