輝きを求めて㉔『さあみんなの前で』
「グッ……!」
『
自身の腕も足も、一瞬にして氷漬けにするほどの氷結速度。
その能力の強力さに『
「あら、いちおう退くアタマくらいはあるのね。
でも無駄よ。アナタはもう氷漬けにするって決めたから」
だが『D・D』に扮する楓乃は眉一つ動かさない。
そのまま静かに左手を掲げ、長さ50センチほどの縦長の氷塊を作り出す。
そしてそれを砕き、
「――『
中から氷で出来た扇子を取り出した。
これこそが『D・D』の代名詞とも言える武器、『氷扇』。
歴代の作品の中で彼女はこれを手に数々の敵を屠り、凍らせてきた。
「さて、さっさと終わらせましょ」
そして楓乃はその氷扇を、まるで本当に使い慣れた道具のように軽くそしてしなやかに仰ぐ。
するとどこからともなく出現したのは、長さ40センチほどの氷柱が数本。
楓乃は氷扇を再び仰ぎ返し、その氷柱の群れを『
「グウッ!」
鋭い風切り音と共に向かって来るそれを、『
しかし、氷の女帝からの攻撃はこれで終わることはない。次々と第二、第三の氷柱を生成し発射していく。
「ほらほら、しっかり避けないと死んじゃうわよ?」
「ク、クソッ……!」
雨のように降り注ぐ氷柱を前に、『
このままでは近づく事すらままならず、傷ついていくだけ――『
「『人生山あり谷あり』――!」
それはもちろん、自身の『異能』を使っての瞬間移動。
『
しかし。
「逃がすわけ、ないでしょ?」
その直前に楓乃が氷扇を大きく仰ぐ。
すると突如として『
「グ、ガ……!」
それはまるで、『
そのあまりの威力に口からはうめき声が漏れ、体は徐々に宙を浮く。
「さっき見せた瞬間移動、あれ室内だけでしか使えないでしょ?
だからわざわざ『ハロウィン会』で賑わっているはずの校庭ではなく、校舎内で暴れることを選んだ。
違う?」
「ググ……!」
「ほら質問にさっさと答えなさい……って口が凍えちゃって話せない、か」
再び楓乃は氷扇を仰ぐ。
すると『
「ガアアァッ!?」
「そのまま、外まで吹っ飛びなさいな」
そして遂に『
「……ま、ひとまずはこんなところね」
「な、何だ今のは……!?」
震えた声で、清治が尋ねる。
「何だって……その位見れば分かるでしょ、愚図ね。
それよりそこ、邪魔だからどいて」
「あ、ああ……」
楓乃は畳んだ氷扇をクイクイと動かし、清治を強引に倒れた英人の傍らからどかす。
そして入れ替わるようにその傷ついた姿を見下ろし、クスリと冷たく笑った。
「フフ……本当、バカね。
腕を失ってまで戦うだなんて……アナタって本当、自分の命の価値ってものを分かってるのかしら?
ま、借りを作るのもなんだし、今回は特別よ」
楓乃は傷口にそっと手をかざし、優しく雪を纏わせる。
「!? 傷口が、凍った……?」
「応急処置よ。これで血は止まるわ。
それじゃあ私はまだまだ用事があるから。後は顔だけ男、アンタが面倒見なさい」
「顔だけ男って……俺のこと!?」
清治は自身の顔を指さし、愕然とする。
「顔だけ男」となじられたのもそうだが、先程までとは全くキャラの違う楓乃の言動に動揺を隠せない。
しかし当の楓乃の方はそんな事情などつゆ知らずとばかりに、冷めた表情で言葉を続ける。
「他に誰がいるのよ……とにかく、命令はしたから。
もし完璧にこなせなかったら、氷漬けにするわよ。本気で」
「は、はい……」
「よろしい。じゃ、駄犬退治に行って来るわ」
「お、俺が言うのもなんだけど……大丈夫なのかい? それも一人で」
呼び止める清治に、楓乃は髪を揺らして振り返る。
「嘗めないで頂戴……今の私は『ダイアモンド・ダスト』――心さえ凍らせる氷の女帝なんだから」
そして悪戯っぽい微笑みでそう言い残し、雪風と纏って窓の外へと跳んだ。
――――
「グ、クッ……」
体の雪を払いつつ、『
そこは東校舎の正面、校庭全体からすればやや端の場所。
「お、おい……あれ……」
「まさか、あれが今騒いでるバケモノ!?」
「だから俺の言った通りだったろ!?
さっさと逃げるぞ!」
そして既に周囲では、生徒たちが『
本来ならば、『ハロウィン会』の喧騒によって発見には時間がかかったのかもしれない。
しかし生徒たちの注意と関心が既に「突如校舎に出現した謎のバケモノ」に移っており、校庭に出てすぐにその存在を察知される事態となった。
「マジかよ……」
「あれ、マジで本物!?」
「とりあえず写真撮ろうぜ写真!」
しかしその対象があまりにも非日常的であったため、反応は半信半疑といった所。
なので生徒たちは大多数は『
「チィ……ッ!」
それは渦中の本人にとっては何とも言えぬ状況。
どうしたものか、と『
「――逃がさない、と言ったでしょ」
その言葉と共に数多の氷柱が、突如として飛来してきた。
『
「テメェ……!」
「あらいい逃げっぷり。さすがは負け犬。
まあいいわ。私の推理が正しければ、もう瞬間移動は使えないはずだし。後は適当に嬲るだけね。
動物虐待なんて本当は趣味じゃないけど、アナタは何か汚らしいし別にいいわよ……ねっ!?」
楓乃は下から掬い上げるように氷扇をあおり、地面に氷を発生させる。
そしてそれはまるで白蛇のようにうねりながら、『
「グ……!」
堪らず『
「甘いっ!」
しかし、その程度は楓乃とて想定済み。
氷扇を横へ薙ぎ、跳んだ『
「グッ……ナラバ……!」
このまま避け続けてもキリがない、そう悟った『
「あら、意外と思い切りある……でもそれも想定内。
また吹っ飛びなさい!」
「グゥッ!?」
だが楓乃の発生させた猛吹雪を前に、ただ吹き飛ばされるしかなかった。
氷と雪と風による、完璧な布陣。
雪にまみれ片膝をつく『
「さ、これで分かったでしょ? 格の違いというやつが」
対する楓乃は、冷たい微笑みのまま悠然と『
その外見こそいち女子高校生であったが、纏うオーラはそれとは全くの別物。
演技で魅せる、とでも言うのだろうか。いつしか周囲の生徒も皆息を飲んで二人の様子を見つめていた。
「ほら見なさい。沢山の人間が私たちを見てる。
こんな所でやられるなんてアナタ、幸せものよ?
ひょっとしたら人生で一番目立ってるんじゃない? フフ」
「グ、ク、クッ……!」
一歩一歩近づく楓乃の姿を前に、『
最早誰の目にも、勝敗の行方は明らかな状況。
「ウ……オオオオオオォッ!」
しかし『
「……愚図ね」
それはなおも人を遥かに超越したスピードであったが、今の楓乃には何の脅威にもなりえない。
小さく溜息を漏らしつつ、楓乃は扇を仰いで迎撃しようととする。
しかし、
「つ……!?」
突然全身を襲った疲労感により、思わずその態勢を崩した。
(まさか、『異能』の使い過ぎ!?)
『
いくら元々が強力な能力と言えども、それは最早この世界における『異能』の平均レベルを大きく逸脱してしまっている。
だが楓乃は大切な人を守るため、発現してから間もない『異能』を無意識のうちに酷使させて戦っていたのだ。
そしてその隙を、『
突進した勢いのまま距離を詰め、爪を楓乃へと向かって振り上げる。
「しまっ――」
「死ネェッ!」
だが、その時。
「――『再現』」
その手は、振り下ろされる前にはじけ飛んだ。
「ガアアアアアアッ!」
校庭中に響き渡る、『人狼』の悲鳴。
(ま、まさか……!)
楓乃は思わず振り返った。
「命中。
……片手でも意外とイケるな」
するとそこには、校舎の中から投石器を振り回す英人の姿があった。
傍らには清治が立ち、その左肩を支えている。
「グウウゥッ……、ヤ、八坂アアァァ……!」
「俺が腕一本失ったぐれぇで、リタイアするわけねぇだろ……。
甘いんだよ」
「せ、先輩! 無事だ『桜木、演技忘れてる』……あ、コホン。
よく無事だったわね、死にぞこないの癖に」
英人の復活に、表情をぱあっと輝かせる楓乃。
しかし英人に指摘され、元の『D・D』へと戻す。
「それでいい……というわけで『ダイアモンド・ダスト』さんよ、辛いだろうがもう少しだけいけるか?」
「あら、私に指図するなんてアナタ何様?」
「一応、お前の一個上の先輩だが」
「知ってるわよ……でもまあアナタの憎たらしい顔見てたら、何故だか少し力が湧いてきた。
ええいいわ、やってあげる……さて、」
楓乃はフッと笑う。
「さあ駄犬、今度こそアナタは終わらせてあげる。
覚悟なさい?」
そして再び、『
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