血命戦争⑨『ガールズトーク』
――好きな人が、遠くに行ってしまうような気がした。
「
まるで悪い夢でも見てように、その息を切らしそして額からは汗を流しながら。
「い、いきなりどうしたの!? まさか悪夢!?」
「ダイじょうぶですか!?」
「……あ、あれ、ここは?」
和香はキョロキョロと辺りを見渡す。
白いベッドに、白いカーテン。
先程までいた筈の
「近くの病院よ。
あなた
「デモ、大きなケガはないみたいで良かったです」
ベッドサイド、二人の見知った少女たちがいた。
「……ごめんなさい。
ご迷惑かけたみたいで……。
私の都合で付いてきてもらったのに……」
沈んだ顔で、和香は
「別に無理もないわよ。
直接見たわけじゃないとはいえ、彼氏の部屋が血だらけと言われれば気絶もするでしょ」
「ソウです。ですから今は休んでください」
「い……いや、別に幹くんとは恋人同士っていうわけじゃ」
「彼氏」という言葉に反応した和香はビクリとその顔を上げ、真っ赤に染めた表情を見せた。
「え? そうだったの?
わざわざ秋田から探しに来たくらいだし、てっきりそういうもんだと……」
「ま、まだただの幼馴染ですっ!」
和香は手をブンブン振って否定する。
「『まだ』?」
「え……あ、うぅ~!」
ぷしゅう、と頭から煙を出して和香は視線を落とした。
どうやら二人はいわゆる「友達以上恋人未満」というような関係のようらしい。
「……好きなんだ、新藤君のこと」
「……はい。そうなんです」
その表情は林檎のように真っ赤で、恥ずかしさで目は涙で潤んでいる。
でも、「好き」という事実にはしっかりと頷いた。
(……すごいな)
瑛里華は素直にそう思った。
今まで好かれることは数多くあれど、いまだに好きになったことがない身。
だからこそ、和香の「好き」に対する純真さが羨ましかった。
「スゴく素敵、ですね」
「いえ、そんなことないです。
私なんか幼馴染という立場に甘えちゃっているだけで……都会で頑張っている幹くんに比べたら、とても」
「そう? 新藤君のことは詳しく知っているわけではないけど……お似合いのカップルだと思うけど?」
「いやいや! そんなことはないですよ!
だって幹くんカッコいいですし、優しいですし!
だから私なんかよりも、ずっといい人がいますよ!」
「デモ和香さんだって、すごく可愛いですよ? 都会でもきっとモテモテだと思います」
「そんなことないですって~!
というか滅茶苦茶美人なお二人に褒められても困ります~!」
和香は再び腕をオーバーに振って否定する。
なにせ今彼女の目の前にいる二人は最高レベルの美人。
田舎出身の和香にとってはまるでテレビや雑誌の中から飛び出てきたような次元の違う存在であり、そんな二人に可愛いと褒められたとあらば気後れの一つもするというものだ。った
「ビジン……瑛里華さんと、後は看護婦さんですかね?」
カトリーヌは顎に人差し指を当ててキョロキョロする。
「アンタ……意外と自分の容姿には無頓着なのね。まあいいけど。
そういえば、今更だけどもう体調は大丈夫?
何かうなされていたみたいだけど」
「はい、それに関しては大丈夫です。
これは昔からですから」
「昔からって……それ、大丈夫なの?」
瑛里華がそう尋ねると、和香は昔を思い出すように窓を見る。
「私と幹くん、子供の時からお互いの声が聞こえるというか……夢に出たりとかするんです。
なんだろう……ロマンチックな言い方をすれば『心が繋がっている』って言うんですかね?
だからこそ、幹くんの危険を感じてここまでやって来たわけなんですが」
「マサかそれって……」
和香の言葉を聞いて、カトリーヌの頭に思い浮かんだのは『異能』の二文字。
しかもお互いにということは……幹也もその可能性がある。
「どうしたの? カトリーヌさん?」
「イ、イヤなんでもありません」
しかしまさかそのことを口に出すわけにもいかないため、カトリーヌは慌てて口を噤んだ。
「……あれ? そういえば八坂さんがいませんね?」
和香は不思議そうに病室をキョロキョロと眺める。
ここにいるのはカトリーヌ、和香、瑛里華の三人だけで、先程までより一人少ない。
そのことに和香が気付くと、瑛里華が不機嫌そうに口を開いた。
「ああ、アイツね。
『スマン! 急用ができた!』とかいってちょっと前に出ていったわ。
全く仮にも第一発見者だってのに、私たちを置いてほっぽり出して……!
ホント頼りのない奴!」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
――好きな人の、声がした。
「のど……か……?」
あの地下室の中、気を失っていた幹也は目を覚ました。
全身、特に頭が鉛のように重い。
まるで徹夜明けの脳に麻酔を打ったかのようだ。
しかし時と共に、これまでの記憶も徐々に蘇っていく。
「そういえば、俺……!」
これまでの事を思い出し、幹也は自分の体を必死にまさぐる。
そこには傷一つない、綺麗な肌だけがあった。
「……まただ。『いつも』と、同じだ……!」
腕を組んで震える体を必死に押さえながら、幹也は立ち上がる。
その震えは恐怖からくるものであったが、その対象は他ならぬ自分自身。
『
もちろん、ほとんど何もできずに倒されてしまったことも。
それからの記憶が何もないまま、今此処に立っている。
一体、あの男は何処に消えてしまったのか。
何故、自分は無傷で生きているのか。
そして――
「俺は、一体何をしたんだ!?」
視界に広がる光景を前に、幹也は思わず絶叫する。
床も、壁も、天井も、その全てがひたすらに赤い。
地下室一面に散乱した血と肉片だけが、幹也の視界を埋め尽くしていた。
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