+ Scenario1 海賊討伐編 +
1.港町シルヴァン
[1-1]冒険の出会いは酒場から
依頼をこなして報酬を貰い、生計を立てる旅人たち——通称、冒険者。彼らに仕事を斡旋し、さまざまなサポートを提供する酒場は、冒険者の宿と呼ばれる。
基本的に二階が宿泊所、一階が酒場兼食堂になっていて、一階の掲示板には求人ポスターが所狭しと貼り付けられていた。
その中の一枚が、ラディンの目を引く。
————傭兵求む!
15歳以上、戦士・剣士・魔法使い、etc.
経歴、性別、種族は不問。
日給1200クラウン以上。
能力に応じ追給あり。
宿舎・食事支給。
連絡は、ライヴァン帝国騎士団長・ジェスレイ=ラーカイルまで————
「どうしたラディン、傭兵に志願するのか?」
「んー……」
酒場のオヤジさんに声を掛けられて、ラディンは生返事を返しながら、右目を隠すほど長い前髪をかき上げた。
「コレ、高くない?」
「んん? そりゃ、お城からの求人だからなァ」
一般労働者の日給平均は640クラウンほど。
200クラウンも出せば冒険者の宿に泊まって食事もできると考えれば、寝食付きでこの日給、駆け出し冒険者にとって破格の待遇だ。
「国王陛下、傭兵集めてどうするんだろうね」
戦時なら正規軍のほかに傭兵部隊というのもアリだろうが、今現在、ライヴァン帝国に戦火の気配はない。不思議に思いながら呟けば、オヤジさんは苦い顔でムウと唸った。
「騎士団の再編に手間取ってるんだろうよ。なんせ、まだ三年だからなァ」
「そっか、志願者の中で有望そうな子がいたら騎士見習いにしちゃおうってことか。……良さそうかも」
「おまえさん、騎士は似合わんだろう。腕の方はともかく」
「そうかなぁ」
言われるまでもなく、騎士っぽくない自覚はある。王城勤めするにはいいチャンスだが、騎士団長のお眼鏡に適わなければ、一般枠として短期雇用の可能性も高い。
「どうしようかなー」
「やめておいた方がいいぜ」
答えを期待しない独り言にすぐ近くから返答があり、ラディンはびっくりして思わず隣を見た。
見あげるような長身と、左の眉上から右頬にかけて斜めに走る傷痕。
自分の髪よりは明るめの茶髪に、やはり幾分明るいブラウンの瞳、まだ若い男だ。
彼は腰に手を当てポスターを見ていたが、ラディンの視線に気づき、人懐っこくニカリと笑った。
「やめといた方がいいぜ。こんな求人出すってことは、どこかに火種を抱えてるってことだ。そりゃ一見すれば待遇良さそうだが、命の値段としては……な」
「ギアの言う通りだぞ、ラディン。おまえさんが今の国王陛下に命を捧げるってんなら、止めはしないが」
「そうだとしても、今のライヴァン国王はちょっとなぁ」
ギアと呼ばれた彼とオヤジさんに交互に諭され、ラディンはつい眉を下げる。
「そっか、駄目かー……」
年長者の意見が一致しているのなら、今は時ではないのだろう。それでもついつい肩も落ちて、ため息も出てしまう。
全力でガッカリしていると、ギアにポンポンと肩を叩かれた。
「おまえさん、ラディンだったか? 腕が立つんだろ?」
見あげれば、爽やかな笑顔で自分を見ているギアと目が合う。
「そこそこ、かな?」
「じゃ、俺の仕事を手伝わないか? なんてったって、人助けだぜ」
「え、いいの!?」
お城入りできなかったのは残念だが、仕事も欲しい。彼のことはオヤジさんもよく知っているようだし、信頼できる人物なのだろう。
全力で食いつけば、ギアはブラウンの目を細めて右手を差し出した。
「俺もちょうど、手伝ってくれる奴を探してたところだ。……俺はギア、おまえは?」
「ラディンです」
「よろしくな、ラディン」
応じて出した手を、グッと握られる。
剣を扱い慣れた剣士の手だと、ラディンは思った。
オヤジさんに挨拶をし店を出て、ギアの案内で、拠点となる詰め所に向かう。
道々ギアが、仕事の内容を話してくれた。
「実は最近、港で海賊の活動が活発化しててな。奴ら商船は襲う、市民に乱暴は働く、みな困り果ててるんだよ。けど、王都から遠いこの港町まで、王城の方は手が回らないらしい。……だから商人たちが金を出し合って、冒険者を雇いだしたのさ」
話しながらギアは、少しだけ苛立たしげな表情を過らせた。主要港であり、それ以前に自国の領土であるだろうに、手が回らないとは何事だ、と呟く。
彼は正義感の強い気質なのだろう。
気持ちがわからないわけではないが、施政に関しては、今のラディンに言えることは何もない。だからそこには触れず、尋ねてみる。
「ギアはその仕事をしてんの?」
「いや……俺は、あんまり気の毒で放っとけなかったんだ」
毒気を抜かれたように答えて頭をかく、ギアの照れたような表情につられて、ついつい笑みがこぼれた。
「ギアっていい人だね」
「これくらい普通だって」
笑いながら言ったら、笑いながら返される。
そりゃ生計に直結する商人たちや被害を被っている住人たちの立場でなら、普通かもしれない。かといって、戦闘の訓練を受けているわけではない一般人が自力で海賊を撃退することはまず無理だ。
「海賊って結構強いもんな」
だから放って置けなかったんだ、と納得しつつの独り言だったが、ギアには不安を感じているように聞こえたのだろう。
「何、アイツら所詮ただのゴロツキ集団だからな、そんなに強くないさ」
ラディンを安心させようとしてか、彼はそう言って親指を立ててみせた。
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