(番外編)部室ができました

「要らねーならタピオカ同好会に譲るから良いんだけど。あと、ちょっと訳アリなんだが」

「訳アリ……でも、部室欲しい!」

「なんか嫌な予感しかしないんだけど」

 クーラーのきいた職員室。でも先生は暑い暑いと言いながら扇子を手にしている。夏休み前とあって受験のことや部活のことで職員室に顔を出す生徒は多い。私たちもその一部。部長と副部長の後ろから先生の顔を覗くと、いつも通り眠そうな顔で椅子に座っている。相変わらず机の上は荒野。……なんか寒気がする。今度から職員室はいる時はカーディガン着よっと。



「……僕、ハウスダストアレルギーなのでマスクします」

「聞いてたけど、聞いてたけど、こんなに酷いの!?」

「帰っていい?」

 先生に言われてやってきたのは校舎の一番端にある茶道室。3月まで茶道部が使っていて、物がそのままになっているので掃除をしてくれるなら部室にしても良い、というような話だった。中はなんと形容して良いか戸惑う状況であった。ゴミ屋敷ほど汚くはないし、かと言って綺麗かと言われたらそうでもない……と悩んでいると新入りくんが全員にマスクをくれた。

「箱で持ってきてるんで、また欲しかったら言ってください」

「なんか争ったあとに殺されたタイプの殺人現場みたいだね!!」

「なんて例えしてるんですか部長!」

 でも、まさしく部屋の状況はそんな感じだった。


「話が急だったから変だと思ったのよ。とりあえず、2人は窓を全て開けて換気扇も回す。部長はごみ袋と軍手の準備。私は先生シメてくる」

「えっ、副部長!?」

「あっちゃー」

「僕、見てこなくても大丈夫ですか」

「大丈夫! 1年生の時なんてあの子活動の度に先生にキレてたから!」

「部長、それ大丈夫って言うんですか!?」

 窓を全部開けた直後、先生の叫び声が聞こえたけど聞かなかったことにした。


 とりあえず3人でなんとなくエリアを分けて、ごみ袋に物を詰めていく。学校の備品っぽいものは勝手に捨てられないので、それは廊下に置いた大きな段ボールに入れていく。

「先輩、この抹茶とお菓子、賞味期限3年前なんですが」

 新入りくん、なんで異物を手にして普通にしてられるの? 見せないで、見せないでさっさと捨てて、気持ち悪いから!

「あ、この風鈴可愛い!飾って良いー??」

「部長、掃除終わってからにしましょう!」

 部長の担当エリアだけ進んでない。手伝わなきゃ駄目かな……っていうか絶対副部長帰ったな。

「それにしても早いねー2人とも」

「いえ、部長が遅いんです。まるでアルバムを見つけてゆっくり見てしまうような」

「あーわかる、やるやるー!」

「部長、僕も手伝いますから一緒に頑張りましょう!」

「うん、頑張る!!」

 ……容姿がいいって得だな。



「お疲れさーん」

「先生、お疲れ様です!」

 とりあえずゴミを捨てに行こうかと話していたタイミングで先生と副部長がやってきた。先生の手にはコンビニの袋があった。

「アイス買ってきたから休憩するぞー」

「やったー!」

 部長が掃除の時には見せなかった俊敏性を発揮して先生の元に行く。私と新入りくんはビックリして顔を見合わせていると、副部長がアイスを渡してくれた。夏っぽいホワイトソーダ味だった。

「お疲れ様、すっとぼけた2人を残して貴女を置いてっちゃってごめんなさいね」

「大丈夫です」

「すいません、僕すっとぼけてますか?」

「うーん、私だから良かったけど、とりあえず賞味期限が切れて見るも無残な形になってるお菓子を女の子に見せちゃ駄目だよ?」

「え、最低」


 その後、新入りくんは溶けたアイスのようにやる気を失っていた。どのぐらいかと言うと、やる気のなさに定評がある先生に「お前やる気ないなー」と言われるくらいだ。

「やっと風鈴つけられる!」

 机の上に立って風鈴をつける部長は正反対でテンションが高い。

「良かったですね、今日中に片付け終わって」

「アイスパワーだね!!」

「アイスだけでやる気が出るなら始めから先生に用意してもらえば良かったわ」

「いやいや、おれ昨日パチンコ買ってたから良かったけど負けてたら次の給料日まで飯抜き生活だったんだからな」

「それは自業自得よ」

 刹那、溶けかけのアイスは2個になった。

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