えんそくくらぶ
【お世話になりました】そうま
酔っ払った先生と新入りくん
「待ってください部長ー!」
コンビニで買った6人分のお弁当を持ったまま走るのは至難の業。バランスを崩すと中がゴチャゴチャになってしまいそう。運動が苦手な私には難しい。
「でも、早くしないと場所取り損ねちゃうよ!!」
「副部長が早起きしていつもの所を場所取りしているので大丈夫です!」
「あ、そうだった!!」
いきなり止まったため私は止まりきれず振り返っていた部長にぶつかってしまう。先輩の大きな胸のおかげで少なくとも顔にケガはない。
「い、いきなり止まらないでください!」
「ごめんごめん!」
両手を顔の前で合わせて謝る姿は可愛らしい。1年生の時に沢山告白されていたという話は本当なのかも。
えんそくくらぶは新入生歓迎会を兼ねて、ゴールデンウィーク最終日に高校から近い公園でお花見をすることになった。晴れてはいるけど桜は少し散りかけてて人は少なめ。今年は新入生が2人は居ることになっている。私の代だけ1人なのは少し寂しいけど、アットホームな雰囲気なのできっとすぐに忘れられる……はず。
「居ました! 副部長、お疲れ様です」
「おはよう。新入生2人は不参加よ」
「えっ、どうして!?」
「それっぽい男女が来たけれど、部員は今3人で全員女だって聞いて女の子の方が嫌がって2人とも帰っていったわ」
副部長は今日もゲーム機を操作しながら会話を続けている。ゴールデンウィーク中にクリアしておきたいゲームがあると言っていたので、多分それだと思う。去年場所取りを引き受けてくれたのも、家で固定ゲーム機でオールしてそのまま場所取りしてブルーシートの上でスマホゲームができるからだと部長が話していた。ゲーマーでなければクールビューティーみたいな感じでもてそうな気がする。
「えー、そうだったんだ。部長的には新入生確保できないとまずいんだけどなー」
「まぁ、顧問的には変な奴が入んなくて良かったんじゃないの?」
「先生おはようございます!」
「おはよーさん、ってわけでお前は今年もパシリ頑張れよ」
重いだろ? と言って飲み物だけはいつもクーラーボックスに入れて持ってきてくれる……と言うのは建前で、ビールを飲みたいけれど生徒が飲み物調達だとアルコール飲料は買ってこられないから。勿論、こんな弱小部活に生徒会から活動費はミジンコほどしか貰えないので飲食物は全員の割り勘で。
「よーし、全員座れー。時間もちょうど集合時間だ。新入生歓迎会もとい花見始めんぞー」
「はーい!」
お弁当はいつもジャンケンで買った人から好きなものを選ぶ。でも、今日はあまりが2つあるから全部あけて好きなものをつまんで行くスタイルに変更。そして、今回お菓子担当だった部長が何となく買ったお饅頭が先生には好評で「なんだかんだで、饅頭うまい」と言っていた。心なしかいつもより缶ビールの減りが速い。今度からお菓子はこれで決まりになりそう。
「酔ったー、俺吐く」
「えっ、ここで?」
副部長が冷たい視線を送りながら呟くと先生は口元を抑えてゆっくりと立ち上がる。これは冗談ではなく本当に吐きそうな展開……?
「お疲れ様です。僕トイレまで案内します」
「あら、さっきの」
「なんかよく分からないけど、先生お願いー!!」
「えっと、ビールの空き缶ついでに捨ててきてください」
私服参加で良いと新入生には伝えていたはずなのだが、制服を着た男の子が先生に肩を貸してトイレへと運んでいく。この位置からだと池の近くのトイレかな。
「何あのイケメン!? ジャニーズに居そう!!」
「さっき言ってた新入生の片割れ」
「えんそくくらぶに期待の新星現れちゃった感じ!?」
「部長、えんそくくらぶにおいての期待の新人の定義って何ですか……?」
「まぁ、のんびり待ちましょう」
10分後に新入生から部長のスマホに先生が落ち着いたので先生だけベンチに残し戻ってくると連絡が入った。
「ひなたぼっこしてたら酔いって覚めるのかな?」
「どうかしら? まぁ、次回はアルコール禁止にしましょう」
「先生が離れてる時に空き缶があると私たちが飲んでいるんじゃないかと疑われるんで、毎回怖いんですよね」
「あ、だからさっき僕に缶の処分をお願いしたんですね」
「いらっしゃい! 座って座ってー!!」
「割りばしと紙皿はここ」
なんだかんだ言いながら副部長も新入生が来たことを喜んでいるらしく、ゲーム機から目は離さないが色々と教えてあげている。部長もイケメンが入ったことに喜んでいる。
「失礼だったらごめんなさい、もう一人居たって言う女の子は?」
「帰りました。最初から入部意志もなかったみたいです、ごめんなさい」
「もてる男は辛いって奴だね!」
部長がニヤニヤしながら言うと、新入生はちょっと困った顔をしながらお茶を飲む。目が大きくて、鼻も高い。色白の細身。もてる顔って近くで見るとこんな感じなんだなーと観察してしまう。
「質問攻めにしたら可哀想よ、ゆっくりしていきなさい」
のんびりおしゃべりしたり食べ物をつまんでいると副部長がゲーム機の充電がなくなってスマホの充電も残り少ないから帰ると言って立ち上がる。時計を見たら時刻はちょうど当初計画で解散しようと言っていた時間。副部長、計算してゲームを進めていた……?
「ちょうど時間だね、帰ろうか!」
「僕先生見てきましょうか」
「あの、クーラーボックスがあるので、全部終わってからみんなで見に行きませんか? それでいいですか、部長、副部長」
「そうだねー、活動終了報告もしたいし、みんなで行こっか」
「私に拒否権はないのね、ちょうどエンディング終わった所だから良いけど」
「なんか帰りたくないな」
水芭蕉の咲く池のほとり、少し酔いが覚めた先生が私たちを見て呟く。
「こんな緩い部活あっていいのかって思う時もあるけど、俺もお前たちも楽しいって思えてんならそれでもいいのかね」
「先生、まだ酔ってるわ」
「良いじゃん、素面の時にこんな堅苦しい話できるかっつーの」
「でも先生の好きなパチンコ番組の特番やるって言ってましたよねー? それなら早く帰らないと」
部長がそう言うと、先生が慌てて立ち上がる。
「そうだな、パソコンの大きい画面で見たいな! のんびり帰るかー、お前らも気を付けてな」
一瞬良い先生だと思った時間を返してほしくなった。でも……
「あの、先生、クーラーボックスです。中に未開封の飲み物入ってます」
「悪い、悪い。ありがとな」
「先生、入部届明日渡しに行っても良いですか?」
「俺明日有休取るつもりだったんだよな、明日居るか分からないから部長に渡して」
「えー! 先生酷いー!!」
和気あいあいとしたこの空気が、私は好き。新入りくんは早くもこの空気になじんでいるし、1年楽しく過ごせそう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。