春の儚い出来事

光矢野 大神

第1話春の儚い思い出

私が住んでいる街には銭湯がある。

私は今年から大学生になり、週に1度マンションの狭いバスタブではなく、銭湯の大きい浴場に入ることを決めている。

4月のある日に、銭湯にある露天風呂に入っていた時だった。1匹のツバメが露天風呂の入口にある屋根がある所に入っていた。

よく見てみると、そこにはツバメの巣が出来ており、外からでも中に雛がいることが分かった。

入っていたツバメは、雛に捕まえて来た虫を与え、雛はそれを夢中で貪っているのを見ると自然と笑顔になった。ここに来る楽しみがまた1つ出来た気分だ。

5月に入り、また露天風呂に入っていた時だった。あの時の親ツバメがやってきた。私は、それを湯船に入りながら見ていた。

しかし、今度はツバメの様子が少しおかしかった。

巣に留まることなく、周りをグルグルと回っているだけだった。

見かねた私は、湯船を出て前ツバメの巣があった所に寄ってみた。

よく見てみると、ツバメの巣はもうなかった。多分銭湯の従業員の方が撤去したのだろう。当たり前といえば、当たり前のことである。

親ツバメは、無くなった巣と突然居なくなった自分の子供達のことを信じられずに周りをグルグル飛んでいるように見えた。

私は、その親ツバメに言葉は通じないだろうが、「次はもっと場所を考えて巣を作りなさい」と言うしかなかった。

そして、冷めた心と体を温めるためにまた湯船に入った。

春の儚い出来事である。



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春の儚い出来事 光矢野 大神 @junia1125

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