第25話
結局どこにも行くことはなく、日がな一日面白くもないテレビ番組を観、それに飽きたらスマホでゲームをはじめる。それにも飽きたらファミレスかチエーン店に行って飯を喰う。それが今年の良壱の正月だった。
新年も五日が過ぎ、たまには掃除でもしようと思い、まず最初にバタやんのケージを降ろして、表の陽の当たる場所に連れてってやった。久しぶりの日光浴にご機嫌なバタやんは、ギイギイと声をだしながら止まり木に掴まってばたばたと羽根を広げている。
良壱は事務所に戻ると、箒を手にして奥から順番に掃き掃除をはじめる。それほどの汚れはないのだけれど、どうしてもバタやんのケージの下だけは落花生の殻や餌の食べ散らかしでフケのように白くなっている。こればかりはどうしようもない。
ようやくひととおりの掃除がすんで、掃除道具を片づけようとしたとき、玄関ドアがノックされた。久しぶりの依頼人に胸を躍らせながらドアを開けると、良壱は驚きのあまり一瞬心臓が停まりそうになった。
「ええッ?」まずその言葉しか出なかった。「何で……」次にはあまりにも予想外なことに良壱はうろたえた。
「おひさァ」
「何だよ突然訪ねて来て。来るなら来ると電話してから来いよ」
良壱はようやく落ち着いたのか、ドアを大きく開けてなかに入るよう促す。
「へーえ、これがこの前話してくれた良壱の会社なんだね」
清架は、大きな旅行バッグと白いダウンジャケットを脱いでデスクの上に置いた。
「まあ、会社というんじゃないけど、一応ここで仕事してる。ちょっと待って外に置いてあるものをなかに入れるから」
そういって良壱は外に出て行った。戻って来たとき、手には白いオームの入った大きなケージを提げていた。
「何それ」
珍しいものを見た清架は大きな目をさらに大きくして訊く。
「これさァ、オーストラリアのオームなんだけど、ある日ここに舞い込んで来たんだ。いまだに飼い主が現れないから、ずっと預かったまま。名前はバタやんっていうんだ」
「バタやん?」
清架は訝しそうに軽く首を傾げた。
「そう、いつもカゴのなかでばたばたと忙しないないから、そう呼んでる」
良壱は面倒なので清架にはそう説明をした。
「ふうん」
「そんなことはいいけど、何で急に名古屋に出て来たんだよ、何かこっちに来る用事でもあったのか?」
「ううん、名古屋に来たことがなかったから、一度来てみたかったの」
もっともらしいことを清架は口にしたが、ただそれだけではないことを良壱は察していた。そんなことでわざわざこんな遠くまで足を搬ぶなんてことは清架の性分ではありえないことだ。
「どれくらいこっちにいるんだ?」
「別に決めてはいないけど、五日間くらいかな」
清架は臆することなく、平然とした顔で答える。
「五日? それまでどこに? ホテルは?」
良壱は矢継ぎ早に訊ねる。
「ネットで検索したら、この近くにルブラ王山というホテルがあったから、とりあえずそこを予約したわ」
「そうなんだ」
清架の思惑がさっぱりわからない良壱は、そういうより他なかった。
「良壱はここで寝泊りしてるの?」
「ああ、ここの二階で寝起きしてる」
そのとき天井から声が聞こえた。
「イラッシャイ、ヨクキタネ」
突然の聴き慣れない声に愕いた清架は、思わず振り仰いでバタやんを見る。
「こんにちは。このオーム喋るの?」
「オームジャナイ、バタヤンダヨ」
「あら、ごめんなさい、バタやん。私は星野清架っていうの、よろしくね」
清架ははじめて鳥と会話するのを喜んでいるようだ。
「あいつはほっとけばいいから、それよりわざわざ名古屋まで来たんだから、見たいとこがあるんだろ」
良壱は突然の訪問者、それも高校の同級生ときているのでどう対応したらいいのかまったくわからない。しかし清架の話す口振りや振る舞いからして、どうしてもただの観光旅行で来たとは思えなかった。
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