第22話

「じつは、ずっと隠してたんだけど、俺、一年半前に商社辞めてたんだ。そのことをまだ誰にも話してない、もちろん親にも……。だからクラス会でこっちに戻って来ることになったから、いっそのこと思い切って話してしまおうと考えた。でも、いざとなるとなかなか踏ん切りがつかなくて、いまだに迷ったままだ」

 良壱は、足もとの砂利を爪先で蹴りながらそこまで話した。

「やっぱり……で、会社辞めて何やって生活してるの?」

「うん」

「うん、じゃわかんないよ。ここまで話したんだから、もうすべてを打ち明けな」

 じれったく思った清架は、良壱の肩を拳骨で突っつく。

「宅配屋だよ」

「宅配? 何でまた宅配屋なんか……」

 もう隠し切れないと観念した良壱は、これまであったことを包み隠さず話した。

「へーえ、そうだったんだ。でもそれって別に隠す職業でもないよね。っていうか、逆に人のためになってるのと違う?」

「俺もそう思うんだけど、仮にこれを親に話したら、苦労して大学を卒業させたのに、『ああそうなの』って許せると思うか? それを考えるとなかなかいい出せなくて、それでちょっと悩んでる」

「確かにいい出しにくいかもしれないね。で、明日は何時の電車に乗るの?」

「まだはっきりとは決めてないけど、六時か七時に名古屋に着くようにしたいと思ってる」

「それまでに、両親に話して聞かせるわけね」

「まあ、そうだといいんだけど、こればっかは俺も自信がないよ」

 その時点では良壱の腹のなかは半々に別れていた。

「これで胸がすっとしたわ。だって、気にかかってあまりよく眠れなかったも。でも良壱のいまの仕事、私応援するからね。明日は用があるから見送りに行けないけど、気をつけて返って

それだけいうと、晴架はパンツの尻を叩きながらベンチから立ち上がり、「まだここにいる?」とつづけた。

 良壱はあっけらかんとした清架の行動に、ただぽかんとするばかりだった。


 家に戻り、夕飯の買い物に行く母親に留守番を頼まれ、することのない良壱は居間でテレビを観つづけた。だが番組の内容はまったく上の空だった。 

 父親が仕事から戻り、夕食を囲んだのは七時前だった。久しぶりに息子が帰ったことで奮発したのか、能登牛のすき焼きを用意してくれた。そういえばこのところちゃんとした肉というものを口にしたことがなかった。

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