第20話

 時計を見ると、まだ夕方の五時半だ。久しぶりに会いながらこのまま別れることに納得のいかない四人は、話し合いの末、山中隼人がよく利用する片町の居酒屋で飲み直すことになった。

 居酒屋は通りから一本入った場所にある、落ち着いた感じの店だった。あらかじめ山中が電話を入れておいたので、今度は四人だけの個室でゆっくりと飲むことができそうだ。

「やっぱお昼の宴会って難しいよね。だって、夜だったらプラスアルファで飲み放という手もあるんだけど、昼間はみんながどれだけ飲むかわからないじゃない」

 清架ははじめての幹事役に反省することしきりだった。

「星野、はじめてのクラス会だし、すべて清架にまかせっきりだったからしょうがないよ。何だって授業料ってものが必要なんだ。だから来年はみんなで相談して決めたらいいじゃないか、なあみんな」

 山中は初幹事の清架を慰めるようにみんなに賛同を求める。

「そうだ」「ああ」「山中のいうとおりだ」

 清架は口々に発したみんなの言葉にようやく肩の荷が下りたようだ。

「じゃあさあ、いまからは星野の慰労会に切り替えて、みんなで飲み直そう」と池田。

「そうだそうだ、雄策おまえたまにはいいこというよな。それに俺も遠く名古屋から来たんだから、存分におまえたちと話がしたい。さあ、乾杯しよう」

 良壱の言葉にみんながグラスを高く上げた。

 しばらく雑談がつづき、酒が回りかけたとき、

「ところで清架、おまえいま何やってるんだ?」

 良壱が清架に酌をしながら真面目な顔で訊く。

「お酒飲んでる」

「そうじゃない、真面目に答えろよ」

 良壱ははぐらかされたことに少し不機嫌になっていった。

「正直いうとね、いまプー子さん。三ヶ月前に勤めてた食品の卸会社、辞めちゃった」

 清架は人さし指でグラスの縁をなぞりながら、俯いたままいう。

「そうなんだ」と良壱。

「結婚する相手はいないのか?」

 今度は横から山中が質問をする。

「それがね、残念ながら皆無。あの男まさりのみどりが結婚できるんだから、私にだって縁談のひとつやふたつあってもいいんだけどね」

 清架は唇を尖らせた顔でモロキュウに味噌を練りつけた。

「人間の好みというのは人それぞれだから、ただ清架のところに順番が回って来ないだけだよ。だからそんなに心配することはないさ」

 口数の少ない池田雄策がときどきこうやって口を挟んで来る。

「ちょっと、私、別に心配してるなんてひと言もいってないんだけど」

「まあ、まあ」

 酔いの回った清架を山中が宥める。

こんな遣り取りが何度も繰り返されて、時計の針は十時半を過ぎていた。

「ああ、もうこんな時間。そろそろ私帰らないと……」

 清架のひと言で楽しかった三次会の幕を降ろすことになった。

 店の前でもう一度再会を約束した四人は、ほとんど灯りのなくなった裏通りを、タクシーを求めて歩きはじめた。

 清架の家は金沢城から少し西に行ったところにある本多町で、良壱は金沢に来た観光客は必ず行くという東茶屋街から二、三分のところにある。少し遠回りをすればすむことなので良壱が清架を送ることになり、その後のふたりがどうしたのかは不明のままだ。

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