第19話
北陸新幹線が開通したことで、こちらに帰って気安いかなと思ったんですが、やはり結婚したりするとそうもいかないみたいです。それと肝心の北島先生なのですが、お見えになる予定だったのですが、つい最近体調を崩されたということで、みんなによろしく伝えて欲しいとのことでした。それと、クラス会をこの時間にしたのは、本当は夜にゆっくり飲みながらと思ったのですが、家庭のある女性はそうもいかないらしいのです。もし飲み足らなかったら二次会でも三次会でも好きなだけやってください」
「じゃあ星野は独身だから早く帰らなくてもいいんだ」
山中隼人が横から茶々を入れる。
「山中、もう酔ったの?」
気の強い井上みどりが山中の顔を突きそうなくらい箸を動かす。
「まだ酔ってない」
そういったあと山中はグラスのビールを飲み干し、注げといわんばかりにみどりの前に突き出す。
「私はホステスじゃないからね」みどりは不貞腐れた言い方をしながらも山名にビールを注いでやる。良壱のグラスにも注ぎながら、
「良壱は名古屋だったよね? 名古屋で何の仕事してるの?」面接官のような口調で訊く。
そこには八年の隔てというものがまったくなかった。
「俺は、総合商社に勤めて、もう四年になるよ」
良壱は正直にいわなかった。別に嘘をつくつもりもなかったのだが、いま自分がやってることを人に話してもけして理解されないと思った。
「結構いいお給料もらえるんでしょ、商社って」
「まあ、そこそこ。でも、どこでも同じかも知れないけど、人間関係がややこしかったりして、結構厳しい社会だぜ」
「でも名古屋って大都会だから、遊ぶとこはいっぱいあるんだろうな」
これまで大人しくしていた池田雄策が話しに入り込んで来た。
「そりゃあ、あれだけ人が住んでるから、ないものはないくらいだけど、毎日遊び歩いてるわけじゃないからよくわからん」
口を開いたら変な質問をするので、良壱は苦笑いをしながら口もとにグラスを持って行った。
話がひととおりすむと、今度は男女に別れて勝手な話題で盛り上がり、あっという間に決まりの二時間が過ぎてしまった。まだ話したりないといった女子たちは、納得できないといった顔で渋々腰を上げる。
「どうする?」
すべての勘定をすませた幹事の清架が、玄関横で待っているみんなのところに顔を突っ込んで訊く。
「みんなまだ話したりないっていってるよ」
山中みどりが代表で清架に伝える。
「だったら、お茶の飲めるところに行こうよ」
清架は咄嗟にそういったものの、この街は喫茶店が少ない。それに七人が固まろうとするとそこそこ大きい店じゃないとそう簡単にあるものじゃない。みんなで話し合った結果、ホテルのラウンジに行こうということになった。
七人は二台のタクシーに分乗して、駅前のAホテルに向かった。
「新幹線が通るようになってずいぶん人の流れが変わったわ。だからどこに行っても混んでるから、いままでのように好きなとこに行けなくなっちゃたのよ」
タクシーのなかで清架は愚痴るように良壱に説明をする。だが、まだ金沢の街の詳細な変化を実感してない良壱はぴんと来なかった。
ホテルのロビーに着いた七人だが、まるで披露宴がすんだばかりと見紛うくらい観光客で溢れている。それでも何とかティーラウンジに席を見つけ、二次会が開催される。女子ばかりが四人固まり、男子はその横で刺身のツマ状態で取り残されている。飲み物が来る前にすでに盛り上がり、年寄りの会話のように何度も同じ話題が繰り返されている。
爪弾き状態の男子たちは、おいそれとは女性軍の会話に入ることができず、もっぱら声をひそめて昔の彼女の話で持ちきりだった。
コーヒー一杯で二時間以上も粘った七人だが、家族が待っている山森みどり、井上芳子、白河祥子の三人は、来年もっと落ち着いて話のできる場所で再開することを誓っていそいそと帰って行った。
残った男三人と幹事の清架は、ホテルのロビーで佇みながらこれからのことを相談した。
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