第18話  7

 仕事の予定がなかったので、金沢に帰るのは前日でも前々日でもよかったが、良壱は散々悩んだ末、やはり実家へはクラス会がすんでから帰ることにした。もう何年も帰郷してないから、正直どんな顔をして玄関の戸を開けたらいいかわからなかった。それに、会社を辞めてしまったこともまだ話してない。顔を合わせれば間違いなくその話になる。それを思うと気が重くなった。

 名古屋駅七時五十分発の『しらさぎ1号』に乗れば、金沢には十一時前に到着する。駅から混んでなければ開催場所までバスで十五分ほどだ。だが開催日が日曜ということで心配したが、何とか席を確保することができた。

 当日の十一月一日は吸い込まれそうな秋晴れで、車窓を流れる景色のすべてが光を跳ね返し、遠くに望む山はすでに五色に綾なしている。忘れかけていた季節をあらためて報せてくれた。

 だが、車窓から車内に視線を戻すと、いまの仕事のことをどう両親へ話したらいいのだろう、自分としては後ろめたい仕事ではなく、むしろ逆に人助けだと思っている。それを理解してくれればいいが、どこにでもある葬儀屋、それも悪徳と名がつくような類と一緒くたにされたら、おそらく二度と実家には帰ることができなくなるだろう――三時間の間幾度もそんな思いが去来するのだった。

 久しぶりの金沢だった。まず北陸新幹線の開通で駅舎がずいぶんと変わっている。いちばん変わったのは、人の数の多さだった。考えてみれば日曜日ということもあるが、場合によっては四連休ということも可能だ。そのせいなのだろう、駅ビルは観光客でごった返していた。

 忘れることのない故郷の空気が搬んで来る匂いを懐かしみながらバスを待ち、昔の姿をどこかに探しながら目的地である天神橋に向かった。

 停留所でバスを降り、開催場所の松魚亭まではそれほど距離はないので、昔を思い出しながらゆっくりと坂道を登った。

 車路をゆっくりと歩いて行くと、前方に見覚えのある星野清架の姿が見えた。良壱は旅行バッグを持つ反対の手を振ると、清架もそれに応えて大きく手を振って歓迎してくれている。

「三戸くん、ちゃんと来てくれたんだね」

幹事である星野清架が明るく元気な声でいう。

「みんなは?」

 良壱はあたりを見回すようにしてから訊く。

「みんなはもうなかで待機しているわ。三戸くんが最後のゲスト。さあ、みんなが待ってるから入りましょ」

 清架は先になって歩き出した。高校のときより少し肉がついたようだ。

 清架のあとについて店のなかに入って行くと、やはり昼時ということもあって大勢の客が、北陸の新鮮な魚を味わっている。ほとんどがおめかしをした観光客である。そのなかに一見して周りと違う様相のグループがひと際声を高くしていた。

「みんな、三戸くんが来たわよ」

「おう」

 いちばんはじめに声を上げたのは山中隼人だった。他には池田雄策、井上芳子、山森みどり、白河祥子の五人が座敷で良壱たちを待っていた。男子は全員独身だったが、女子は清架以外三人共結婚をしていた。

「みんな揃ったので、これからN高D組の第一回目のクラス会を行いたいと思います。まず乾杯をしたいと思いますので、乾杯の音頭を山中くんにお願いしたいと思います。それではどうぞ」

 星野清架は、周囲に気を配りながらはきはきとした声で挨拶と指名をした。

「おい、おい、俺かよォ。そんなん聞いてねえし……」と山中。

「大丈夫よ、山中くんに立派な挨拶してもらおうなんて誰も思ってないから」

 清架は相変わらずはっきりとものをいう。

「人に頼んどいてその言い草はないだろ。まあ、みなさんお忙しいなかお集まり頂きありがとうございます。八年ぶりということなので各自積もる話があると思いますので、時間の許す限りゆっくり歓談してください。それでは、八年ぶりの再会にカンパーイ!」

「カンパイ」「かんぱーい」それぞれが口にしながらグラスを上げた。

「それはいいけど、参加者七人だけ?」

 一クラス三十五人の構成だったはずなのに、たった七人しか集まっていないことに拍子抜けした良壱は、横の清架にビアグラスを口に搬びながら訊く。

「いまその経緯を話すからちょっと待ってて」

 清架は声をひそめて良壱にいった。

 銘々が料理に箸を伸ばし、グラスを交わしはじめてしばらくしたとき、清架が話しはじめた。

「みんな、食べながらでいいから少しこれまでの経緯を話しますから聞いてください。残念ながら今回は七名しか集まってもらえませんでした。みなさんのところに連絡が届いたように、一応手もとにある住所録すべての住所に連絡を取りました。 でもほとんどの人が現在市内に住んでなくて、仕事あるいは結婚をして各方面に散らばってました。その転出先の住所はあらためてお知らせします。

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