第51話/DropOut
「……キリー。キリー!」
「ううん……?ユキ、どうしたの?」
深夜。俺はこっそり寝床を抜け出し、キリーの肩を揺すっていた。
「悪い、少し付き合ってくれないか?」
「それってこくはく~?それならもっとロマンチックに……」
「……キリー、寝ぼけてないでくれよ」
俺は寝ぼけるキリーを引っ張り出すと、月明かりに照らされた夜の町へと這い出した。
「ふわ……どうしたの、ユキ?まだ真夜中だよ?」
「悪いな、キリー。少し話がしたかったんだ」
キリーは眠そうな目をこすると、夜風に髪をなびかせながら俺を見た。目は覚めたみたいだ。
「頼みがあるんだ」
「ダメ」
「実は……って、え?キリー、真面目に聞いてくれよ」
まだ寝ぼけているのか?だがキリーはきっぱりと首を横に振った。
「おおマジだよ。どうせスーを一人で助けに行くって言うんでしょ」
「……」
図星だった。
「ダメ。ユキを犠牲にして、スーを助け出してどうするの?自分ならどうなってもいいなんて、ふざけたこと言わないでよ」
「キリー……」
「ユキ。わたしだって、スーを諦めたわけじゃない。だけど、はやまらないで。みんなでいい方法を考えよう?」
「……キリー。綺麗事は、よそうぜ」
「え?」
「他にどうしようもないって、きみもわかっているだろ?俺たちは連中の策に、両足を突っ込んでしまった。五体満足じゃ抜け出せない泥沼だ」
「へぇ。ユキらしくもない、弱気な考えだね?」
「はは。俺だって、そんなに出来た人間じゃないさ。それにこの状況をどうにかする方法も、残念だがこれしか思いつかない」
「……じゃあ、みんなで行こう。全員で、スーを」
「ダメだ。レスが言ってただろ。鳳凰会は今回の件に介入できない。メイダロッカ組は不参加じゃなきゃいけないんだよ」
「なら」
「けど、一人なら。それも、最近入ったばかりの新顔で、身元も不明の男なら。見逃してもらえそうじゃないか?」
「ユキ!自分が何言ってるか、わかってるの!?」
「……ええ。それについては、私も知りたいですね」
俺たちしかいないはずの路地に、三人目の声が聞こえて来た。いつの間に外に出てきたのか、暗がりの中には浅葱の髪を携えた、レスが立っていた。
「レス……さん。いつから」
「おおむね。それよりも、先ほどの発言について、もう少し詳しく聞きたいですね」
盗み聞きしていたことを少しも悪びれず、レスは続ける。
「あなたは、一人だけでスーさんを連れ戻してくると言っていましたね。自分だけなら、鳳凰会全体としては見なされないからと」
「……ええ」
「本気で言っているのなら、笑い話にもなりません。あなた一人といえど、組の看板を背負っていることに代わりありません。それを理解できていないのなら、浅はかすぎるとしか言いようがないですね」
レスの厳しい物言いに、俺よりもキリーのほうがオロオロと戸惑っている。
「あ、あの、レスさん?えっと、ユキは本気じゃなくて」
「いいや。キリー、俺は本気だ」
「ちょっとユキ!」
「……これだけ言って、まだ状況が理解できないのですか?私は行くなと言っているんですよ」
「それでも、俺は行く。そのために何を捨てることになろうとな」
俺がきっぱりと言い切ると、レスは試すような目で俺の顔を見た。それに応えるように、胸をそらして視線を受け止める。しばらくすると、レスはふっ、と笑った。
「わかりました。それほど愚かなら、私は自分の立場上、あなたに処罰を与えねばなりませんね」
ビシリ。レスは俺に向けて、まっすぐに指をさした。
「メイダロッカ組、ユキ組員。鳳凰会三代目“代行”、レス・クラップスの名において、あなたを鳳凰会から破門します」
続く
《少し短めです。次回は日曜日投稿予定です》
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