第14話 伝令、異常事態
ルゥを肩に抱えて清廉騎士団の団長はダンジョンの入り口へと到達する。外に出ると辺りは真っ暗であい、夜空には小さな煌めきが大量に瞬いていた。
”欲深なドラン=ヴィスラの砦”と呼ばれるこのダンジョンは、先ほど団長が放った魔法”
「ふぅ、ここまで来れば大丈夫かな?」
「ハインリヒ団長、ご無事で何よりでした。ルゥ副長の怪我は?」
先に外に批難していた団員の1人が、遅れて外に出てきた団長、ハインリヒを心配して駆け寄ってくる。
ハインリヒは負傷したルゥを肩からゆっくりと地面へと下ろす。
「おい、ルゥの応急処置を早くしてやってくれ! ”乾燥医草”を持ってこい!」
「だん……ち、よ……」
今まで目を閉じていたルゥが細く目を開けて、息も絶え絶えに口を開く。
「ルゥ、喋るな。こんな傷ぐらいならすぐに治るさ」
「ご、めん……。お……兄、ちゃん」
そこまでルゥは喋ると、気を失ったようで再度目を閉じる。
ハインリヒは優しくルゥの額を撫でる。
(自身が生きるか死ぬかって時に謝ってくるなんて、昔から変ってないな。ルゥは)
「団長! 医草を持ってきました」
「早いとこルゥの傷口に塗ってやれ。それで近くの街までは持つはずだ」
「あと……」
「ん?」
医草を持ってきた団員が何かを言いづらそうに、歯切れ悪くハインリヒに声を掛ける。
その様子に、ハインリヒは眉をひそめる。
「どうした? 今は時間が惜しいんだ、要件があるなら早く言ってくれ」
「それが、その、聖都から伝令が」
「伝令?」
「おー、おー。忙しそうなところにすまんね。火急の用件にて私がここまで直接来たんだ」
1人の肥えた男がゆさゆさと腹の脂肪を揺らしてハインリヒの元へとやってくる。男は白と淡い水色のマントを羽織り、長帽子と胸にジャスミンの刺繍された出で立ちであった。
ハインリヒはその男に気が付くと、男に向かって敬礼する。
「ライ教宣長、お久しぶりです。何故貴方がわざわざ聖都からこんなところへ? しかも聖都からは何日もかかる距離を、そんなに急いで?」
「我が国始まって以来の異常事態だ。今朝から我が国の各地でおかしな訴えが起きているんだ。死者が大量に生き返ったり、村1つが暗雲に飲み込まれたり、砂漠が凍り付いたとかな」
「……そんな事態がイリオス大陸の4分の1を占める我が国の各地で?」
「ああ、君たちが聖都から歩いて7日かかる行程を1日で追いつく我が
ハインリヒは背筋に冷たい汗が流れるのを感じる。
まるで”ごくと”からあふれ出た厄災が、己の国を蝕んでいるように感じたのだ。
「それで任とは、それらの異常事態の調査、解決でしょうか?」
「ああ、そうだ。あと君たちに任せてあった”ごくとの厄災”の討伐はどうなっている?」
「”欲深なドラン=ヴィスラの砦”ごと水で流しました。中に居た赤髪の龍もどき女と汚わらしき”不揃い目”の龍混じり、2人の死体はまだ確認出来ていませんが」
「ふむ」
ライは顎髭を擦りながら、少しだけ何かを考えると口を開く。
「死体が上がらなければ、生きているものだと思って行動してくれ。くれぐれも、”ごくとの厄災”を野放しにするんじゃないぞ?」
「ええ、承知しております」
「では私はこれで。”我がオウル帝国に崇敬と繁栄を”」
「では。”我がオウル帝国に崇敬と繁栄を”」
ライとハインリヒは交互に地上と空を指さす。ライは胸ポケットから小さな紙を取り出すと、ハインリヒに手渡す。
そしてそのまま人の三倍の大きさはある大きなカラスに飛び乗ると、夜空へと消えていく。
「ハインリヒ団長、ルゥ副長の移動準備は出来ていますが、どこへ向かいます?」
「いや、予定通りにルゥを近くの街に搬送しよう」
「団長、お言葉ですがライ教宣長の任も急ぎでは」
「なに、何事も命あってのことさ。死んでしまったら、任の遂行どころか失敗すら出来なくなる。さぁ、急いで街に向かうぞ」
そうハインリヒは団員に向かって号令を掛ける。
屈強な団員数名でルゥを持ち上げると、街のある方角に向かって走り始めたのだった
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