『第2章 聖女の予言、清廉騎士団』
第11話 予言、騎士団副長ルゥ-1
いつも間にか黒髪黒目に戻った悠とヴィスラはたき火を囲み、話ながらも互いに別のことに没頭していた。
ヴィスラは腕に付けたドクロをあしらった黄金の装飾品を磨いており、悠は釣り竿を磨いていた。ヴィスラは悠から手渡された『拭くだけでピッカリッーン』と書かれた布を手にして目を丸くする。
「まァ、こんな便利なモノが悠の世界にあるさね。まったく羨ましい限りさね」
「まあ、俺が居た世界はほどほどに平和で便利だったよ。だけど28年間生きてきて、あんまり好きじゃなかったけどな」
「ふゥん、そんなもんさね? アタシにはわからない感覚さね。ところで、だ」
「うん?」
「そのつりさお?をちょっとアタシに貸して欲しいさね」
「えっ、嫌なんだけど」
悠は釣り竿を抱えるようにしてヴィスラから距離を取る。
悠にとって雀の涙ほどの給料とボーナスからなんとか捻出して購入したモノであり、大物を釣った思い出や台風の日に釣りに出掛けた思い出などが詰まった釣り竿であった。さらにこの釣り竿は自分が元の世界から持ってきた数少ない己の持ち物。そのため、悠はヴィスラに釣り竿を渡すのを渋ったのだった。
「まァまァ、ちょっとぐらい良いさね。なに、壊したりしないからさ」
「無理」
「なァ、ちょっと」
「無理無理」
「おィ」
「無理無理無理かたつむり」
悠のその拒否具合に、ヴィスラは苛つき始める。
段々とヴィスラの口元からは黄金の炎が漏れ始め、右手は鋭い爪が伸び始める。二人の間はぴんと張り詰めた空気になり、ヴィスラは釣り竿を奪おうとまさに悠に向かって飛びかかろうとする。だが。
(へっ?)
悠に向かって飛びかかろうとしたヴィスラの動きがゆっくりと、ほとんど止まっているかのようになる。
その感覚に悠はこの世界に落ちてきた時のことを思い出す。あのときもまた、隕石群の破片がほとんど止まって見えていたのだ。
(なんだ、何が起こっている?)
悠はヴィスラから目を離すと辺りをぐるっと見渡す。そこで悠は気が付く。
俺の背後から飛んできた2本の矢。その矢の軌道は、悠の後頭部へと伸びていた。
(矢? えっ、どこから)
咄嗟にしゃがみながらも矢が飛んできた方を視線で追う。
そこには複数人の人影が、矢を引き絞っている姿があった。
「ひっ!」
悠がそこまで理解した瞬間、止まった世界の時間が動き出す。
悠の頭上すれすれを矢は通過し、その流れ矢はちょうど悠に飛びかかろうとした体勢のヴィスラへと突き刺さる。
「痒いさねっ!!!」
ヴィスラの胸へと直撃した矢はその体に突き刺さらずに地面へとぽろりと落っこちる。
二の矢、三の矢が次々と廃屋となった家の影から放たれる。
「遅いさねっ!」
二の矢をその鋭い爪でたたき落とし。
「ふッ!」
三の矢を口で受け止めて。
「そこからさねっ」
ヴィスラは矢の軌道を読むと、射手に向かって飛びかかる。
だがその鋭い爪が射手へと届くことはなかった。
「”
ヴィスラと射手の間に起きる爆発。地面は揺れ、空気は震え、辺りには衝撃波が広がる。
地面のレンガは粉々に砕け、大穴が穿たれる。その大穴の中に、紅い鱗で覆われた右手で体を防御しているヴィスラの姿があった。
「アラアラ、このわたしの
射手の間から、一人の少女がクスクスと笑いながら出てくる。
片手にはジャスミンにも似た花があしらわれた杖を持ち、清純さを感じさせる真っ白なスカーフとドレスを着ていた。
少女は額から血を流すヴィスラを見下ろしながら、杖を突きつける。
「まァまァ、それなりに骨のあるやつもいるさね。ところでアンタたち、いったい何者なんだい?」
、
「わたしはルゥ、純血のルゥ。清廉騎士団、副長をしているわ。 ……聖女様の予言の通り、”ごくと”の封印が解かれてる。予言の通りなら貴方たち2人が、”ごくとの厄災”。聖女様の言われた通り、貴方たち”2人”を浄化するわ」
「2人だってェ?」
ルゥはその杖先をヴィスラから、しゃがみ込んで動けていない悠に向ける。
そのことに気が付いたヴィスラは悠を守ろうとルゥに向かって飛びかかるが、もう遅い。
「”
ルゥは呪文を唱え、杖先が光る。悠は体が動かず、ただただルゥとヴィスラを見ていることしか出来なかった。
同時に、悠は閃光に包まれたのだった。
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