第10話 会話、イリオス大陸について

ぱちり、ぱちりとたき火を囲む、悠とヴィスラ。

ヴィスラは木の串に刺さった焼きたての魚を片手に、たき火に枯れ枝を投げ込む。



「あァ、この”ヤマメ”って言う魚、美味しいさね。こっちのは”イワナ”って言うのさね? アタシが”知らないもの”を食べることが出来るなんていつぶりさね」



「ああ、そうだけど。 ……なあ、さっきの話の続きは?」



 悠は片手に焼いたばかりのイワナを持ちながら、ヴィスラに質問を投げかける。

ヴィスラは焼き魚から口を離すと、少しばかり思案してから話し始める。



「そうさね。まずはこの世界について話そうさね。この世界のことをアタシたちは”イリオス大陸”って呼んでるさね」



「イリオス大陸? 世界の名前なのに”大陸”って呼んでるのか?」



「まァ、誰が呼び始めたかなんてアタシの知ったことじゃないさね。イリオスは大きな四角の大陸で、周囲は海に囲まれているさね」



「へぇ」



「それで、この大陸には色々な種族が居て、小競り合いがたくさんあったさね。悠、アンタみたいな体つきをしたヒュマン族、耳とんがりのエルフ族、チビずんぐりのドワーフ族とかさね」



「……まるで、俺が読んできたマンガやラノベに出てくるやつらみたいだな」



「まァ、アンタと 血魂けっこんの契約をしたときに記憶を覗かせてもらったけど、大体アンタの想像したものと同じさね。 ……まァ、アタシの考えを言わせてもらえれば」



「うん?」



「おそらくアンタの世界にこちらから落ちた人間テンペストが行ってるんじゃないさね? その 落ちた人間テンペストがイリオス大陸のことをそっちに伝聞したと考えてるさね」



「つまり、俺が元の世界に戻る方法もあるってことか。 なあ、ヴィスラ。あんた、俺と最初に会った時にも 落ちた人間テンペストって言っていたよな、あれどういう意味なんだ?」



落ちた人間テンペストってのは、アンタみたくよそからやってきたヒュマン族のことを言うさね。まァ、大体は死骸になってこのイリオスに来るんだけど、アンタは運が良かったさね。で、基本的に、イリオスの連中は 落ちた人間テンペストに近寄らないさね」



「なんでだ?」



落ちた人間テンペストに近づいたら、死ぬって言われてるさね。まァ、実際に街1つが 落ちた人間テンペストのせいで潰されたってこともあったらしいさね」



「……その落ちた人間テンペストが変な病気を持っていたとか?」



「かもしれないさね。まァ、だから 落ちた人間テンペストは厄災みたいなもんなのさね。 ……話をアンタが元の世界に戻る方法に戻そうかね」



「……ああ」



「さっきいろんな種族が小競り合いをしていたって話をしたさね? ある日、それまで小競り合いで済んでいたのがいきなり虐殺になったさね」



「なんでそんなことに」



「”アーティファクト”が出現したからさね。どうも、突然現れたらしいさね。アタシが持っているアーティファクトには人を殺せる力なんてないさね。だけど、アーティファクトによっちゃあ街を焼き払い、地形を変え、湖すら一瞬で蒸発させることが出来たらしいさね」



 そこまで聞いた悠は首をかしげながらヴィスラに疑問を投げかける。



「いや、そのアーティファクトと俺が元の世界に戻るのとどういう関係があるんだ?」



「アーティファクトにはいろんな力があるさね。例えばアタシが持つアーティファクト”万物の声”は生き物はおろかモノの声まで聞くことができるさね」



「じゃあ、もしかして俺が元の世界に戻る力があるアーティファクトも……?」



「おそらく、あると思うさね。で、アーティファクトっていうのはお互いに引かれあう性質があるさね。 ……昔はそれでアーティファクトを巡って血みどろの戦いが起きたんだけど、さ。まァ、取りあえずこの引き合う性質を利用してしらみつぶしに探していくってのがアタシの考えさね」



「よし! ならこれを食べ終わったらすぐにここから出よう!」



 悠は急いで手に持った、焼けたイワナを口へと運ぶ。

ヴィスラはその様子を見てぽつりと言葉を漏らす。



「なんでそんなに急いで自分の世界に戻りたいさね? 少なくともこのイリオスにアタシと一緒に居ればお金には困らないさね」



「まあ、そこまで深い理由はないけど、さ。俺、小心者だからさ、やっぱり住み慣れたところに帰りたいんだよ。海外に出たこともない俺が、しらない異世界で一生生活するなんて合わないもんだし」



「ふゥん、そんなもんさね。アタシなら、見たこともない景色や食べ物なんかに巡り合えて帰りたくないと思うさね」



「ま、人それぞれ考え方は違うもんさ」



 悠は焼いたイワナを頬張りながら、たき火を見つめる。

一方で悠と同じくたき火を見ていたヴィスラの瞳に、黒い影が映るのであった。

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