第7話

「ふぅ~」

 

 夏と言えども風呂はやはり気持ちがいい。今日の疲れが風呂に張った湯の面に、毒のように流れ出るような気がする。


 湯につかりながら見るYouTubeは最高だ。シュチニクリンという言葉の意味はよく知らないが、僕の中のシュチニクリンはまさにこの事他ならない。僕はスマホを眺めながら今日の出来事を回想する。朝、目に虫が入って川に自転車が転げ落ちたこと。そのせいで遅刻したこと。転校生が来たこと。佐藤さんと釣りをしに行ったこと。


 肩に手を当てて、佐藤さんが僕の肩を掴んだ感触を思い出す。感触が思い出されると、なんだか恥ずかしくなって上を見上げた。友達、ましてや女の子と遊んだのはいつぶりの事だろう。

 

 久々に濃い一日を過ごした僕は、中学時代からの唯一の友達である一真かずまに報告するために、LINEを開く。一真とは僕が引っ越してからも、オンラインでゲームをするような仲である。

 

「そういや今日転校生来たわ」

 『ふーん』

「その転校生と釣り行ったわ」

 『まじで?』

「うんw」

 『お前がそんなにすぐに仲良くなれるとはw』

「ほんとそれ。しかも女の子だしな」

 『女の子?!!』

「自分自身でもまだ信じられないよw」

 『俺だって今聞いたけど疑うわそんなの』

 『だってお前が女の子と接するのって飯島さんに告ろうとした時以来だろww』

「うるせぇwやめろw」

 『あれって中2とかだろ?』

 『親密度上げようと必死に接してたけどビビッて告らなかったよなww』

「恥ずかしいからやめろってww」

 『いやぁ大翔に再び青春が訪れるとはなぁ』

「そんな大層なもんじゃねーよ」

「じゃ、風呂あがるからまたとで」

 『おけ』

 

 僕はスマホを風呂の外に脱いである服の上に放り投げて、体を洗い始める。目を閉じると、さっきの感触に映像が乗って、よりリアルに感じられる。風呂に備え付けられているテレビから、アイドルの握手会だろうか、「一生手を洗いません!!」という声を聞きながら、しっかりと肩を洗った。


風呂から上がり、服を着て髪を乾かしてから自分の部屋に戻る。


 スマホを見るとLINEの通知が3件来ていた。どうせ僕には一真からのゲームのお誘いか、企業からの広告しか届かない。LINEを開く。案の定、通知は一真からだった。トークルーム一覧に表示された一真からの『もうしってたらぶりかえすようで悪いわ』というメッセージの横に3件の通知マークがついていた。


悪い...?なんかされたかな...


なにかされたのかと思いながらトークルームを開く。


『もう知ってたら蒸し返すようで悪いけど』

『3か月ぐらい前の話だけど』

『飯島さんで思い出したけど、あいつ亡くなったらしいぜ』

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