第6話

(ということで完成しました。簡易AEDです。電源を繋ぎ、人が死なない程度の電圧に調節する。そしてパッドを二人の胸の背中に貼り付ける。この過程で分かったことは、この二人にパッドを貼るのが大変でした。)


身体がどうのでは無く、この意味不明な世界の理なのか、接触させるのにやたらと時間がかかったのだ。人に干渉するのに途方もない時間が掛かろうとも、電気さんはこの世界で光さんと同等程度には速い。つまり、うざったい理を理不尽でぶっ飛ばして、強制心停止をさせて気絶させる作戦だ。


かなり野蛮だが、これくらいしか思いつかなかったのだから仕方がないと割り切る。アルテナの貧相な頭では無理だったのだ。かといってここで二人に死なれてもらっては困るし、アルテナの精神衛生上にも、立場的にも。


そういった理由で簡易AEDは即座に充電し、2回目を打てるように設計してある。この計画をユウに伝えた時は、


《何とかなるのではないでしょうか。》


と思考放棄したような返答が帰っては来たが、なんとかなるよね!と不安なときにたまにある、なぜか急に自信いっぱいになるあれを発動したアルテナは迷うことなくスイッチを押し込んだ。




ドンッ!

スイッチを押し込むと、ドンッ!という音と同時に二人の体が崩れ落ちる。


「ユウ!」


《時間の流れが戻った模様です。トーヤ、サーヤからは未だに心音確認できません。》


簡易AEDに充電が開始される。アルテナは二人の動いていない心臓に、胸骨圧迫を加える。頼むから死なないでくれよ…。その一心で心肺蘇生を試みること暫く。アルテナは蘇生を諦めかけていたとき……。


《そもそも、心肺蘇生するのでしょうか?》


(そんなこと知りませんよ。死ぬ時は死ぬのです。けれどそれが今だと困るのです。)


《いえそういう意味ではなく、トーヤ、サーヤは元から心肺機能があったのかという事です。》


(どうぞ続けて。僕は胸骨圧迫を続けるけども。)


《マスターの記憶の中に、この世界には心肺機能を利用しなくとも、自我を持ち行動する者達の存在があります。例として、骸骨種(スケルトン)悪霊種(ゴースト)不死種(アンデッド)などがそれに該当します。》


(ユウはトーヤ、サーヤがそれらの中に属する可能性があると言うこと?)


《その通りです。しかし、判断手段がありません。》


(なるほどね。かといってこのまま放置するの……?それは気が引ける。もうちょっとで納得できそうだからさ、ユウ、僕をもう少しだけ説得してくれない?)


《その言い方だと、トーヤ、サーヤが人霊種であり、死亡した場合私の責任にさせられそうで怖いです。》


(いや、そんな事ないよ?自分の負担を少しでも軽くしたいとか全然ないから。)


《…………。》


(…………。)


《…………、通常、電気による衝撃で心臓がダメージを受け、異常をきたした場合、停止ではなく、痙攣による心臓麻痺になります。》


(ユウの説明に愛がありません。いつもは優しいのに、親身なのに・・・。)


それでもユウの説明に納得したことにしたアルテナは二人が目を覚ますのを期待しながら適当に時間を潰した。とは言ってもユウとひたすら、ああでも無い、こうでもないと話をするだけだけど。





小一時間ほど経つと、サーヤが体を起こした。


「大丈夫?」


「え……なんで?なんで生きてるの?」


なんか生きてたらダメって言われたみたいで、少しダメージを受けるアルテナ。


「なんでって言われても、生きてるから良いよね。」


「私の呪いから……本当に?」


「今聞き捨てならない事が聞こえたんだけど!呪いって何さ!」


アルテナは食いつかずには居られなかった。興味が半分、恐れ半分って感じの心境であったけど、少しだけ興味が勝った。



サーヤ曰く、呪眼と言うらしい。それも突然現れて、意図せずに何人かの人を手にかけてしまった時に、国から派遣された騎士に捕まったのだとか。目の隠せば問題が無いと騎士達は知っていたらしく、後ろから襲われ、そのまま目隠しされたらしい。


そして、着いた先がここだったと行くことなのだと語ってくれた。


「目を閉じている理由とかさもうちょっと早く行って欲しかったよ。けどあれは呪いだったのか…。」


「呪いってどんなものだったの?」


「へ?自分の力っていうか、能力なのに知らないの?」


「私達の呪いにかかった人達は一人残らず、生きてもどってこなかったから。」


(あ……軽く地雷踏んだ?ま、仕方ないよね。永らくユウとしか話してなかったし、対人の込み入った話なんて何年ぶりだか。執事のギュールや兄達と話す時も壁があるから。)


「えっとね…やったら時間が長くなる……みたいな?」


「もうちょっと、分かりやすく教えてくれると嬉しいです。」


(そうは言われても、理論とか原理とか分かってないものを説明しろって難しい…。ユウ、ヘルプ!)


《ありのまま、話すだけで十分なのでは無いでしょうか?結果、分かる事が少ないかったと伝えれば良いと思います。》


ユウが言う通りに二人の呪いの効果をわかる範囲で教えることにした。二人は最後まで静かに聞いていた。


「そうなのですか…、よく無事に帰ってこれましたね。」


「まぁね。それで一つ質問なのだけど、サーヤとトーヤは人間なの?心臓が動いていない気がするんだよ。」


「えっ!」


サーヤは慌てて胸に手を当てる。そして暫く経つ。その後次に、トーヤを目を閉じたまま手で探り当て、胸に手を添える。


「心臓が動いてない……?え?私達死んでる?」


「ここに来るまでに、なんかあった?」


「いえ…。」


(となると…?呪眼の発生と同時?)


《その考えが妥当だと判断します。トーヤ、サーヤは既に人霊種ではなくなっているかと。状況的には不死種に近いのではないでしょうか。》


(そうか……。)


(…………………………。)


《マスター?》


「サーヤ、多分君たちがここにいると、殺されなくとも、自由はないと思うんだよね。」


「…………?」


アルテナが急に切り出しすぎたのか、サーヤは頭がついてきていないよう。それでも少し待つと、コクコクと頷く。それを確認して話を続ける。


「アルテナはこの城から出ていこうかなって前々から考えていたのだけど、良い機会だし、一緒に出ない?この城からさ。」


「…………。」


「このままここにいても、アルテナの見識が広がらないし、君たちは自由がない。もしここから出れば、アルテナはここを出る良い機会を得られて、見識が広められるし、君たちは自由が得られる。どう?」


長い沈黙が続いた。そしてサーヤが出した結論は。


「一睡してからでもいいですか?」


時間稼ぎであった。全然良いんだけどね。アルテナも眠かったし。もう夜は盛っている時間だった。サーヤにいつもアルテナの使っているベッドへと誘導し、その横に未だに眠っているトーヤを寝かせる。アルテナは、ソファもどきに横たわる。


「いいよ。明日の朝には教えてよ。アルテナの行動もあるし。」


「わかりました。…最後に一つだけ良いですか?」


「なに?」


「どうしてそんなことを言ってくれるのですか?」


「簡単な話だよ。ここを出る機会を君たちがくれたから。それ以上でもそれ以下でもない。君たちがいてくれれば、外の世界でもちょっとは生きやすきかなって。」


「そうですか…」


「そう、そんなものだよ。それじゃ、おやすみ。」


「…おやすみなさい。」

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