第4話
グランディア王国王城の地下一階。誰も近寄らないも刀子ぐらい地下牢。今ではその区画すべてをぶち抜きにされ、文明による明かりがともっていた。
「ここのジョイント部が合わないんだけど……。」
「あ、ほんとだズレてる。作り直しか。」
薄暗い地下で一人で声を響かせているのはアルテナである。地下牢を一人で改修し自分だけの部屋へと変貌させた張本人である。王家の一員であり生活に困ったことはなかったが、その生活は王家のそれとはかけ離れていた。
この世界は通例的に、長男が家長として、家督を継ぐ。そして次男はその補佐役として務めあげる。長男を補佐し、有事の時は代理を務め、後継ともなる。言ってみれば親から受け取れる七光りは次男までなのである。そしてそうなったら三男坊はどうなるのか。答えは誰でもわかる。次男の替えである。
どうもそこには収まりにくく思ったアルテナ。だからこうして、兄達の目のつかない、こんな部屋に閉じこもっているのだ。しかしそんな状況に特に何も感じず、逆に何も干渉されない事を喜んで、好きな事をしているのだった。
「そろっと旅に出るのもありじゃないかな?」
《まだ時期尚早だと判断します。》
アルテナが今完成した55式狙撃銃を眺めながらつぶやいた言葉にユウは律儀に答える。
《もう少し力を蓄えるために、スキルは習得若しくは、獲得してからでも遅くないと考えます。》
その答えにアルテナは首を傾げた。一年越しに聞いた新単語が耳に響いてきたからだ。
「なにスキルって・・・?初めて聞いたんだけど?」
《すいません、間違いを訂正します。スキルは今のところ習得・獲得はできていません。つまり今マスターにスキルはありません。しかし技術(アビリティ)及び能力(アーツ)の習得は幾つか成功しています。》
「へぇー。初耳。それよりなんで獲得した時とか、習得した時に教えてくれなかったのさ。」
《それは私に吸収統合されるため報告の価値を見い出せませんでした。次回から報告しますか?》
「ユウが吸収統合すればアルテナでも使えるの?」
《肯定。》
「なら報告なんて要らない。言ってもらっても覚える自信ないし、使えるなら関係ないしね。」
アルテナは今、この城から出て行くための準備を進めている。前世の記憶の兵器の幾つかを製作しているのだ。とは言ってもユウ頼りではあるが・・・。かと言ってそう大量には作ってはいない。時間もないし、必要も無い。理由はアイテムボックス的な収納する物がないのだ。旅をいざするとなると、全てを馬車等で運ぶ必要があるのだ。
いち早く収納系のアイテム若しくはスキルが有るならば欲しいなと思いながらアルテナは再び作業に戻った。
作業に没頭することしばらく。階段を降りてくる音が聞こえる。その音はカツーン、カツーンと地下で反響する。どうもここに居ると時間が分からなくなるアルテナはユウに時間を問う。
《18時半です。夕食を呼びに来たギュールかと。》
流石はユウ。頼りになる。そんな風にユウに感謝を伝えてアルテナは服装を整える。ノックがされてから扉を引くとそこには黒い服に身を包んだ初老の男が立っていた。
「アルテナ様、夕食のお時間でございます。今日はアルゴ様とネオ様も御一緒となります。」
頭を下げながら執事のギュールがそう伝えてくれる。どうやら今日は兄達と食事をしなければ行けないらしい。はっきり言って、面倒だと思う。一人で食べるのが一番楽でいい。執事のギュールはそれを知って、何も無い時はここまで食事を運んでくれるのだが、今日はどうやらそうもいかないらしい。
それなりに楽しみである食事が、急にアルテナの心を萎えさせる。かといって駄々を捏ねても仕方が無い。大人しくギュールの後ろを付いて行った。
文明を感じさせない、蝋燭のシャンデリア。長机の一番下の席に着く。兄達はまだ居ない。人を待たせることをなんと思わない上に、自分達が待たされることを嫌う。凝り固まった王族プライドが尽くアルテナを逆撫でしてくる。しかし持て余した時間はユウと話すに限る。別に声に出さなくても、十分脳内で話せるのだ。
《その通りです、マスター。》
ユウ的にあと何日くらいでここを出れそう?
《先ほど申したとおり、もう少し力をつけてからの方が理想的ではあります。ですが、最悪今飛び出しても問題は無いと思われます。その場合少なくとも、この世界に通じる人が一人は欲しいですね。》
ユウの指摘にアルテナはその通りだと思う。転生(?)して外を出歩いた事なんてこの一年を考えても、両手で充分に足りる位だ。もちろんそれも軽い運動の為の、城内の庭の散歩くらいだ。その他にも問題がある。まずこの身一つでは生きていけない。お金の全く手持ちがないのだ。それに持っていきたいものも多いが、手荷物が多くなりすぎてアルテナの体一つじゃ運べないという点だ。
(都合良く収納系の能力かなんかが発現しないかな・・・)
完全に思考放棄して他力本願するアルテナ。そんなアルテナにもユウはしっかりと解決案を持って応答する。
《ストレージバックを開発するのもいいかもしれません。》
(え…?何そのTHE異世界みたいなアイテムは!)
童心にものすごい勢いで返るアルテナ。アルテナが今まで篭もって作っていたのは前世の物だ。この世界については余り知らずに生きてきた。
ユウにストレージバックについて問おうとした時、扉は開き兄達が入って来た。長男のアルゴは席につくなりアルテナに当たってきた。
「おい、愚弟。お前の地下の遊び場から、しばらく出ておけ。」
「アルゴ御兄様それは何故でしょうか?」
「内容はお前に話す必要は無い。なあに二、三日もすれば戻れるから安心しろ。」
「…………。分かりました。」
それ以来話しかけられることは無かった。兄達の声だけが響く食事であった。兄たちにはかいがいしく世話を焼く執事や侍女がいるがアルテナにはいない。
さっさと夕食を済ませたアルテナは地下に向かう道すがら考える。何故?と。
《情報が少なすぎますね。部屋に留まってみるのもいいかもしれません。》
なるほどね。それはいい考えかも。けどわざわざアルテナと関わってこない兄達がアルテナを呼んでまで伝えてくたのだから危険だったりしない?
《ここは王城です。そうそう危険物は持ち込まれないでしょう。可能性としては、マスターに見られたくないものである方が高いと思います。もしくは、単に後ろめたいだけの可能性もあります。》
流石はユウ!アルテナはそれに従わない手は無いとばかりに予定を考える。リスクなどは一切考えない。アルテナは自身の興味を全てに置いて優先させた。
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