EP21 認識

自分という存在を認識したのは4歳の時だったかな…

幼い俺は居間いまでぼーっと立っていた。


あれ、何してるんだ?なんで立ってるんだ?今日は?昨日は何した?なんて考え込んでたのを覚えている。


一般的に物心がついたとでも言うのだろう。

前日までの記憶は一切なく…いや、思い出せないと言った方が正しいんだろうか。


とにかくその日からが本当の人生の始まりみたいだった。

その日以降の記憶は想い出として、しっかり脳内に保管されている。


なんて人間は不思議なんだろう…


机に突っ伏してそんなことを思いながら昼休みを無駄に過ごす、高校二年の秋。


思いふけっていると賑やかな声の中から、こちらへ足音が近づいてくるのがわかった。


その足は俺の横でピタっと止まる。


「………起きてる?」


俺に話しかけてるのではないだろうと、そのままでいた。

トントンと肩を叩かれる。


俺に用事とは珍しいヤツも居たものだ…状況を受け入れ顔を上げる。


「起こしちゃった?」


「肩叩いてきてまで起こしてきたのはそっちだろ」


目の前に現れた彼女はこのクラスの委員長だ。

俺は気怠けだるけに目を擦り質問する。


「で、何?」


「何って、今日は木曜日だよ?」


「だから何?」


「この前した映画観る約束、今日だよ、忘れたの?」


そんなことより俺と話すのは今が初めてだぞ?と彼女の言葉に対して別の疑問が浮かぶ。


「人違いじゃないの?約束した覚えないし、それに…」


「あ、ごめんごめん。間違えちゃった」

俺の言葉をさえぎってそう言った彼女は小走りで教室を出ていった。


「………………」

どうやったら約束の相手間違えるんだよ…


何故か彼女の困り果てた顔が脳裏にこびりつく。


下校の時、彼女が映画館の方面でなく住宅街へと足を向けて歩いてたのを見つけた。


なんだ、ドタキャンでもされたのだろうか…


付き合ういわれも無いので俺はいつも通り真っ直ぐ帰宅した。




______________




自我というものが芽生えたのは4歳の時だったか…


意識がハッキリとした瞬間、あれ?なんで突っ立ってるんだろう?今日は何日?昨日は何した?なんて考えてたっけ。


一般的に物心がついたとでも言うのだろうか?


前日までの記憶は全く思い出せなくて…


その日からが人生の始まりみたいだった。


その日以降の記憶は案外ハッキリと覚えてる。


なんか前にも同じこと思ったっけ…


そんなことを思い返しながら机に突っ伏して昼休みを無駄に過ごす。


そのまま少し寝ようかとした時、クラスの賑わう中から、足音が近づいてくるのがわかった。


こちらへどんどん迫る。

その足は俺の横でピタっと止まった。ちょっとドキドキしながらも姿勢はそのまま。


「………起きてる?」


この声は委員長か?俺に話しかけてくるはずも無いのでスルー。


けれど彼女はトントンと肩を叩いてきた…

モノ好きだなぁ…観念して顔を上げる。


「起こしちゃった?」


「肩叩いてきてまで起こしてきたのはそっちだろ」


目の前に居たのはやはりこのクラスの委員長。

俺は目を擦りながら彼女に質問する。


「で、何?悪いことでもした?」


「ううん、違う違う。今日だよ?金曜日!約束の日じゃん」


「約束?」


「この前したでしょ?今日は帰りに街に寄って買い物付き合ってくれるって!…あ、もしかして忘れてた?」


まてまて、そもそも俺とは仲良しでもなければ友達でもないし殆ど話した事ないだろ…新手あらてのデートの誘い方?いや多分それは違うだろう…


そうやって脳内で色んな思いが駆け巡りつつも彼女へ返答する。


「ごめん。正直言うと約束した覚えないんだよね…それにそんな仲じゃないだろ…話すのもほぼほぼ初めてだしさ…」


少しの間、沈黙が続く。


「そうだよね………そんな仲じゃ…」

そうボソッと言うと、彼女はぎこちなく笑いながら「ごめん、人違いだった」と言って小走りで教室を出ていった。


「変なの……どうやったら約束の相手を間違えるんだよ…」



学校も終わった帰宅途中、彼女がの方面でなく住宅街へと足を向けて歩いてたのを見つけた。


ドタキャンでもされたのか?…


気になりはしたが、付き合う義理もないので俺はいつも通り自宅へと足を進めた。



それからというもの帰宅してから晩御飯、風呂と今日の出来事が頭から離れない。


自室のベッドで仰向けになる。

思い返していると、ある異変に気がついた。


「あれ…………………なんでだ…」


彼女は街へ買い物に行くと言ってたのに...あの時、彼女が映画館をドタキャンされたと思ったのは...


………………勘違いだろう。

約束の相手を間違う彼女の方が数倍、変だしな。


「………寝るか」

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