EP20 異世界メドレー

「はぁあ!」


剣にしたたる血を振るうと、俺は叫んだ。


「このまま前線を守れ!何人なんびとたりとも此処ここを通すな!」


おぉおおおお!という騎士達の応答が響き、彼らの士気が上がる。


約一年になるか...

それまで俺は平凡な高校二年生だった。それがどうした事か、今ではとんでもない身体能力を手に入れ王国直属の騎士隊長になっている。


そもそも此処は日本でもない。目が覚めたらこの世界にいた。


『インカ=セイン』という名の国。文明もアニメやノベルで見るような、いかにもファンタジー。


確かに異世界モノの好きな俺だったが、現実になろうとは…


最後の一人を断ち切る。


「この周辺は鎮圧ちんあつ出来ただろう」


剣をさやに収める。

優越感にひたる俺に、駆け寄って来た一人の剣士が話しかけてくる。


「騎士隊長、リ・ダヒ地区、ギミー地区どちらも制圧完了との報告が」


王国騎士隊の唯一の女騎士である彼女の名はレオニエ。

容姿端麗ようしたんれいで俺を頼ってくれる。

きっとヒロイン的存在だろうと初めて会った時に思ったのを覚えている。


「報告ありがとう。レオニエ、君も良くやってくれた」

涼し気な顔をわざとに決め、彼女の働きをたたえる。


「ありがとうございます、光栄です」


騎士とあってもやはり女の子。頬を赤らめお礼を言ってくれる。こちらこそありがとうございますって感じ。


「皆!王国へ一度帰還する、続け!」


先頭を歩き出す。

俺、今凄くかっこいいな。


王国に帰ったあと少しの休息に着く。


かなりの時間眠ってしまっていた俺を誰かが肩を叩いて起こしてくれたんだ。


「んっ…すまない、寝てしまっていた」


「何よ、その喋り方」


「え?」


目の前には見知らぬ少女が立っていた。ピンクカラーにショートヘア?それから...鎧を着てる。剣士かな?


「え、あれ?君は一体?」


「マジで言ってる?ありえないんですけど」


完全に目が覚める。

周りを見回すと王国の休息所ではなくなっていた。それどころか外。


動揺を隠せないでいると少女は俺を小突いて怒鳴る。


「三十分だけって言ったよね!!!私にアレ押し付けて、戻って来ないから見に来てみたら木にもたれて寝てるし!」


「誰?アレって?」


「本気で言ってる?」


きっと彼女の言うアレとは後ろで倒れている「これぞ」って感じのドラゴンのことだろう。


「どうしたのー?」

追加でもう一人少女がやってくる。こっちはみどりの髪にフリルのあしらわれたスカート。

多分だけど魔法系の人。


「こいつ寝てたんだよ!?私たちが戦ってる間!」


「まぁまぁ、疲れてたんだよ。そうだよね?」


「え?あー……ホントに申し訳ないが君たちが誰だか…ここはインカ=セインではないのか?」


「こいつ寝ぼけてんだよ」


「からかわないでください」


一年も皆の騎士隊長を演じてきた俺の口調はそう簡単には直らない。


彼女達にこれまでの経緯を説明すると、最初はバカバカしく思われていたが次第に信じてくれたみたいで、しかし彼女達の話ではどうやら約一年の間も一緒に冒険をしていたらしい。

ピンクの子がエニー、翠の子がオレンと言う名で、オレンはやっぱり魔法使い。


約一年前、彼女達が住んでる街で偶然倒れてる俺を見つけて介抱してくれたらしい。


そして俺は騎士ではなくエニーに剣術を教えてもらった新米剣士らしい。腕はまぁまぁ。


俺が初めてインカ=セインに来た日も、俺は王国の前で倒れていたのを発見されて介抱してもらったっけ。


二度目の異世界生活…


「次は魔法使いがいいなぁ…」




そう言って俺は宿所のベッドで眠りについた。

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