第113話 アスタルテ書房、そして靴を脱ぐ

 靴を脱いであがる時、少し改まった気持ちになります。

 靴は、外の世界へ立ち向かうための鎧なのかもしれません。


 外で、靴下を脱いで、裸足になる開放感。

 同じ靴を脱ぐという行為でも、靴下のままだと緊張するのに、裸足だと開放されます。


 不思議ですね。


 京都のアスタルテ書房は、憧れの古書店です。

 そこは、幻想文学のくくりに入る本の魔窟のような場所です。

 店主が亡くなられた時に、お店も無くなってしまうかもしれないときいて、これは行かねばと出かけました。

 かなり昔にも行ったことがあったはずなのですが、その時は通りすがりにのぞいただけだったように思います。

 

 アスタルテとは、古代セム人の豊穣女神のことで、イシュタル、アルテミス、アフロディテ、ヴィーナスなどにも連なります。

 

 階段を上って、お宅にお邪魔するようにドアを開けて、靴を脱ぎ、スリッパにはきかえて店内へ。

 ぐるりと室内を囲むように置かれた本棚、合い間にも本棚、ソファが置かれ、サイドボートのガラス扉の向こうに、ドレッサーの上に、魅力的な本やものが並んでいます。

 壁に掛けられた羽根付きの仮面は、フィニを思わせます。

 壁面はギャラリーになっていて、個展が開催されています。


 店内の品物が全部売れたら閉店とのことでしたが、まだ続いているようなので、もう一度訪れてみたいです。


 その時求めたのは、『ビアズレーの墓』マンディアルグ著 生田耕作訳 奢霸都館さばとやかた刊 1981年

 出版元の名称が「奢霸都館さばとやかた」というのも、素晴らしいです。

 気概を感じます、そして、読者限定性も。

 レオノール・フィニの仮面の写真の本も出してるのですよね。


 図書目録の扉の言葉が、よいのです。


「低俗と量産の時代に、敢て問う誇り高き少数者の声。瓦礫文化の底から、埋れた結晶群の美を探る、<反時代的>コレクション。細心の編集と瀟洒な造本で贈る。」


 1987年10月の図書目録の言葉です。

 バブルの頃かな。

 当時は、異端も元気だったのかもしれません。


 本は、お店オリジナルのペーパーで包んでもらいました。

 ソファに寝そべり読書に夢中の若い娘さんの挿絵(イラストというよりも挿絵というのが似合いそうです)のペーパーは、ブックカバーにしてもよさそうです。


 かつて、耽美、異端、頽廃、妖艶、淫靡、甘美etc……が好きだった時代がありました。

 ナチュラルなものつくりをしていくうちに、自分の中のそうした成分が、薄まっていったと思っていたのですが、ふと、しまっておいたものの中から、そうした気配をまとったものが目に入ってくると、足もとの影を、のぞきこみたくなります。


 最近、耽美な甘味をいただいていません。

 ヘルシーナチュラルスイーツばかりでは、脳も精神も健康になり過ぎてしまいます。 

 物語の創作には、あくなものも摂取しないと。

 


 かつての趣味の時代の名残りの物語、よろしかったらご覧ください。

 尚、web上に掲載するに当たって、自主規制してます。


『プリマウルティマ 精霊惑星物語』

 https://kakuyomu.jp/works/1177354054883362945


 異世界ファンタジーなのですが、なかなか読んでもらえないので、ちょっと残念に思っています。

 百合のような薔薇の雰囲気を醸し出すイメージです。





 







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