第78話 美少年探検家

 探検隊が未踏の地に出かけて発掘作業をして文化遺産の保存に努める。

 歴史文化を散逸させることなく残していくというのは、一見良きことのように思われます。

 しかしながら、そうした探検隊は、全て高潔な志に基くものだったのでしょうか。

 自己顕示欲や自己満足が発端であると、盗掘が目的ではなくとも、守ってるやるのだという上からの目線で、過去の遺産を値踏みするような人間もいたことでしょう。

 

 そうしたことを踏まえながらも、それでも、浪漫の眼鏡をかけて見たくなってしまうのが探検隊の物語です。


 BSプレミアムで放送されている歴史エンタメ番組「英雄たちの選択」。


 毎回、各専門家たちが集って、歴史上のあれこれを推察し持論を述べ合い、和やかにテーマについて解説がされていきます。

 

 今回視聴したのは、「英雄たちの選択・選▽探検SP~20世紀探検家列伝 なぜ未知の世界をめざしたのか」、です。


 探検家というと、皆さんは、誰を思い浮かべますか。


 私は、スウェン・ヘディンです。

 かのさまよえる湖で知られてますね。

 シルクロードロマンの先駆者ですよね。


 日本では、探検家とはちょっと違うかもしれませんが、江戸後期の菅江真澄です。

フィールドワークをしていたのですね、彼は。

 彼が記した「甲賀三郎」の諏訪湖の地下の維縵国の冒険譚は、諸星大二郎の漫画でその存在を知って以来、興味津々です。

 

 フィールドワーカーとしては、柳田國男もはずせませんね。

 実に細かく山深くまで踏査しています。

 これには、とある密命があったという話もあるそうですが。


 普通に生活している分には、調査なんてものは必要ないのですよね。

 調査をすることで得られる何かが重要で、調査をする人や依頼主に利益をもたらすから、調査するのです。

 ごく当たり前のことですが。


 で、番組では、二十世紀初頭の三人の探検家が取り上げられていました。

 その三人は、

「シルクロードの仏教遺跡を探検した大谷光瑞。単身、秘境チベットに仏教の原典をもとめた河口慧海。そして、一民間人として、南極探検に乗り出した白瀬矗(のぶ)。」(番組サイトより引用:https://www4.nhk.or.jp/heroes/x/2020-01-08/10/7871/2473150/)です。


 この三人の中で、記憶の底からよみがえってきたのは、大谷光瑞です。

 築地本願寺の本堂の独特の偉容は、彼の探検経験も根底にあるようです。


 手元にある本で「大谷探検隊」の文字を見たことがあるなと思い、年末の大掃除で手つかずのままだった物入のまずは手前の物体を取り出して、奥にある本棚を見えるようにしました。

 ありました。

「中央アジアの夢と冒険 大谷探検隊 1902-1914」。

 これは、平凡社の雑誌『太陽』No.360、1991年6月号の特集でした。

 確かこの本はいただきものだったように思います。

 美術教室の年末大掃除蔵書整理で、廃棄するのでお持ち帰りくださいと声をかけてくださった時のものです。

 

 改めて読み返してみて、大谷探検隊の業績でいいなと思ったのは、写真です。

 写真による記録は、当時の風俗がそのままに捉えられていて、それは言葉での記録に勝るものだと思います。

 現在では失われているものもあるだけに、本当に貴重だと思います。

 最も写真を撮るからと「よそ行き」にしているかどうかは、今となってはわからないのですが、他の資料と付き合わせればその点はある程度はクリアできるでしょう。


 そういえば、漫画『乙嫁語り』の中でも、イギリス人旅行者スミス氏が、道中の様子を湿板写真で撮影して記録していますね。


 話をもどしますが、大谷光瑞はスケールの大きい方だったようで、南方でコーヒー園を経営したり、シトロネラなどの香料栽培をしたり、風変りな建築物を建てて教育活動をしたりと、誌面の写真を見ているとイメージが広がります。


 その大谷探検隊に、橘瑞超という青年がいました。

 特集記事では「美少年探検家・橘瑞超のタクラマカン横断」として紹介されています。

 調べてみると、確かにすっとした線のきれい系の青年でした。

 「美少年」と銘打つからにはその美が何らかの意味を持っていたと思うのですが、それについては触れられていません。

 気になりますね。

 それについて触れている情報も見かけましたが、確証がないのでなんとも。

 

 彼の記した探検記録は、『シルクロード探検 西域探検紀行選集(全6冊)』(大谷探検隊著 長沢和俊編 白水社)で読むことができます。

 学術調査報告書ではなく旅行記なので、感想や心情も述べられていて面白いです。

 さまよえる湖、ロプ・ノールについても記されています。


 未知の領域に進むということは、それだけでロマンです。

 異国、人間の頭の中、宇宙、未知の領域はまだまだ残されています。


 


※カクヨムコン5参加作品です。よろしかったらご一読を。

――書くことでしか かなわない夢がある 彼女と私の小説家への道――

『サルビアとガーデニア 小説家志望の彼女と私』

https://kakuyomu.jp/works/1177354054890430472







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